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リチャード・ジュエルのmaverickのレビュー・感想・評価

リチャード・ジュエル(2019年製作の映画)
4.7
クリント・イーストウッド監督作。
96年アトランタオリンピック開催中に起こった爆破事件。爆弾の第一発見者で多くの人の命を救った英雄でありながら、容疑者と疑われたリチャード・ジュエルを描く物語。

素晴らしい映画。クリント・イーストウッドの監督としての力量は全く衰えない。むしろどんどん極みに達しているようにも思える。正義感の強い心根の優しい男が悪人に仕立て上げられてゆく。冤罪の怖さ。そして面白おかしく報道するマスコミのあり方と、それに扇動される大衆の愚かさを描く。リチャード・ジュエルという被害者の視点から見せることで、それらを痛烈に感じさせる。本当に大切なことは何か。観る者の心に響く素晴らしい作品性だ。

内容やテーマはだいぶシンプル。けれども監督の撮り方が上手い。伝えるべきメッセージ性を的確に、なおかつ大きな感動と共に得られるように作られてある。何が良い作品か、それを監督はしっかりと分かっており、そのために俳優にどんな芝居を求めるべきかも分かっている。リチャード・ジュエル役のポール・ウォルター・ハウザーはもちろん、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツらの演じ様は本当に素晴らしかった。人選も味がある。さすがイーストウッドだなと。

面白いのは、リチャード・ジュエルを始め、世間から非難を浴びる対象の人物らは社会的弱者な者達であること。リチャードはデブで馬鹿にされており、仕事も上手く続かずに二転三転。そんな息子と二人暮らしの母親もまた同様の日陰者な立場。弁護を引き受けるワトソンも落ちぶれ者である。それに対して相手はFBIとマスコミという強大な存在。権力を使い、世間を味方につけて叩き潰しにかかってくる。それでもリチャードらには正義がある。どんなに強大な力で屈服させられそうになろうと、正義を貫き闘う姿に心が熱くなる。理不尽さを感じる世の中だからこそ、こんな作品が心に響く。

20年も前であるのに、ここから社会は何も変わっていない。マスコミが面白おかしく個人を叩き、それによって大衆は扇動されてバッシングが起こる。それが事実無根であったらどうだろう。それによって個人の幸せが奪われ、人生をも狂わされてしまうのだ。マスコミもそうだが、我々もまた自分事として本作を受け止めなければならない。
リチャード・ジュエルの身に起こった事件を描いた物語だが、今の世の我々にも通じること。イーストウッド監督が言いたいことはここにある。

正しいことをすることは良いこと。それが当たり前の世の中であらねばならない。「リチャード・ジュエルのように疑われるからやめておこう」と、正しいことをすることをためらわさせるような世にしてはならない。他人に関わるのはトラブルの元。現にそんな世の中になりつつある。悲しい。でも正しいことをすることは勇気のいることでもある。リチャードは勇気のある人物だった。だからこんなにも多くの人を感動させるんだな。彼のように正しいことをする勇気を持とう。みんなで正しいことを出来るように。
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