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すずめの戸締まりのmaverickのレビュー・感想・評価

すずめの戸締まり(2022年製作の映画)
4.7
2022年に公開された、新海誠監督によるアニメーション映画。興行収入148.6億円、観客動員人数1115万2970人という大ヒットを記録した。


テーマ性に圧倒される。東日本大震災を直接的に描いたという点もそうだし、場所を悼むという要素をそこに絡めた物語が心に響く。重みはあるが美しい物語でもあり、感動と共に鑑賞後には心が浄化されて穏やかな気持ちになれる。主人公の少女は活発だが心に傷を抱えており、彼女の成長物語としても大いに魅力的だ。ごく普通のひとりの少女が日本の運命を左右するような出来事に巻き込まれてゆく。壮大なテーマとスケール、そしてエンタメ性も抜群。「閉じ師」の青年との淡い恋愛要素も絡め、コミカルな描写も盛り込んでテンポ良くそれらを見せてゆく。猫のダイジン、動き喋る椅子というキュートなマスコットキャラの設定も上手い。美麗なアニメーションも健在であり、大ヒットは必然という印象。『君の名は。』『天気の子』に続き、それを果たした本作。新海誠が作るアニメーション作品は、ジブリに並ぶところまで来たと言っても過言ではないかもしれない。

主人公のすずめがヒロインとしてとても魅力的だった。元々正義感が強いとか使命感があるという子ではないが、徐々にそれが備わってゆく。気になる男性のためという原動力もピュアで良い。叔母さんとの関係性など適度に適当なところが緩くて女子高生らしくも、やる時は逃げずにしっかりと向き合うタイプ。心が綺麗で強い女性なのだなと好感が持てる。後半は凛とした強さがあってかっこよかった。声を担当した原菜乃華が上手くてびっくりで、すずめの緩さと強さを絶妙に表現していた。「閉じ師」の草太の声を演じるのは「SixTONES」の松村北斗。声の表現的にはイマイチなんだけど、これがだんだんしっくりとしてくる。彼が出演しているから若い女性の集客にも繋がったのだとは思う。深津絵里はさすがの上手さだったし、神木隆之介、染谷将太、伊藤沙莉らも悪くなかった。

3.11を脳裏に蘇らせる描写が本編中にいくつもあり、それを直視することは辛かった。あの出来事は日本人の多くに強烈に印象付けられている。それをこのように再度突きつけることは酷なことかもしれない。だが本作を鑑賞することで考えも変化する。辛い気持ちにあった人々の心を癒す役割を持った内容だと思う。

「閉じ師」の設定についても考えさせられるものがあった。かつて栄えていた場所が、今は廃墟となって寂しく朽ち果てている。そうした場所が日本にはいくつもあり、そのまま放っておかれていると。そこにいた人々の想いに意識を傾け、鎮めるために扉を閉めるのだと。自分としてはそうした部分に強く共感し、そこに気付いた監督の感性に感嘆した。物には魂が宿り、土地ごとにも神が存在すると日本人ならば知っている。監督が本作に込めたメッセージ性は日本人ならではのものであり、だからこそ我々日本人に強烈に刺さる作品性であった。


さすが新海誠と頷ける作品性で素晴らしい。『オッペンハイマー』とは違う意味で、日本人として触れておきたい作品だと思う。普段何気なく生きているが、日本は神秘に満ち、様々な困難にも負けずに歴史を積み重ねて来た、強く美しい国なのだなと改めて気付かされた。 『君の名は。』『天気の子』に続く、心に残る素晴らしい作品。天才、新海誠の渾身の力作である。
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