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ひとつの太陽のdalichokoのネタバレレビュー・内容・結末

ひとつの太陽(2019年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

きわめてわかりやすい映画だった。物語の強さもさることながら、オープニングから圧倒される美しい映像。ある家族の大きな紆余曲折を描きながら、台湾が置かれる中国との関係なども暗示させる。ラストで木漏れ日から照り付ける太陽はまさに原題の陽光であり、世界で初めて太陽にカメラを向けた宮川一夫(『羅生門』、黒澤明監督)をも思い起こさせる。

(以下長文のため省略)

とにかく素晴らしかった。
映画というものにいくつかの偶然で出会うことがあるが、この映画は始まりから終わりまで、作り手の意思にブレのないドラマ展開と、なにより見事なカメラワークと画面を構築する美しさに圧倒される。もちろん物語も素晴らしいが、個人的には映像の工夫が多く見ごたえがあった。
血まみれのシーン、手首から先が鍋に置かれる。ぐつぐつと。このイマジネーション。この手首は最後の失った本人と主人公ともいえる少年院に入る次男との再会で補われる。
そして最後。母親と盗んだ自転車で二人乗りしながら進む、その空を木々の木漏れ日が美しく照らす。この太陽のイメージは『羅生門』だ。杣売りの男が林の中を進む木漏れ日を世界最初に映画のスクリーンに映し出した傑作。あの太陽がカラーになって蘇る。思えばあの映画も誰が真実を語っているかわからない、というドラマであった。芥川龍之介の”藪の中”。この映画も家族を描きながら最後の最後までその本音が語られず、父親が山の頂上で母親に自分の罪(殺人)を告白し、母親が雪崩れるように慟哭するシーンで全てが氷解する。ある意味ですさまじい戦いの映画である。
原題とは無縁だが、日本語タイトルで示す”太陽(陽光)”とは恐らく家族を意味するのだろう。ひとつの太陽はひとつの家族を意味する。この映画は家族がひとつになるまでの物語である。
次男が不良仲間と犯罪を犯し少年院に入り、父親に見捨てられた弟と両親を取継ごうとする長男は複雑な環境の中で自殺する。弟は15歳の少女を妊娠させ、少年院の中で結婚式をあげるなど混乱が果てしなく続く。
少年院から出て必死に働こうとする次男に不良仲間が近づき、再び悪の道へといざなおうとする。運び屋をまかされた次男が金を引き渡して車に戻ると土砂降りの雨が降る。これもまた黒澤明映画で頻繁に出てくる強い雨。この美しい映像にも圧倒されるが、ここで不良仲間が失踪する。
最後に失踪の原因が明らかにされてドラマは終わるのだが、この映画の背景には貧困にあえぐ都市の家族と、政治的には”ひとつの中国”を強引に進めようとする背景などを連想させる。かつてひとつだった国が分裂し、再びひとつになろうとする困難な道。これらの実情をこの映画は直接語ろうとはしないが、見る側が否が応でも政治的背景を想像してしまう。教習所勤めの頑固な父親と、反発する次男。その間で翻弄される母親と自殺した長男。これらが同じ歴史の中でぐつぐつと煮えたぎるような主張を静かにぶつけ合う。

我々の社会がこの先、低迷する経済を背景にどこまで落ちてゆくのか?将来不安を見せつけながらも、最後は家族の在処に立ち戻ろうとする帰巣本能を感じさせる優しさを残す映画でもあった。

大傑作だった。
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