ちろる

夏時間のちろるのレビュー・感想・評価

夏時間(2019年製作の映画)
3.8
夏休みにかいだあの匂い。
少し古臭い大きな家での生活。
もう、まもなく忘れてしまうかもしれない。
あの家の香りも、おじいちゃんの顔も。

緑豊かな大きな庭、大きな居間とステレオセット、2階の窓際に置かれたミシンなど、どこか懐かしい雰囲気を醸す家に言いようのない居心地の悪さを感じるオクジュ。
馴染めないというより、多分馴染みたくないとどこかで思ってきたのだろう。
馴染みすぎたら、これまでの家族との生活が消えて無くなる気がして・・・
その言いようのない気持ちを同級生へ恋心を抱くことでそんな毎日から逃避する。

過ぎていく時間に心を溶かして、不満げな顔をしても思い通りにならない日々に諦めかけたその時、突然の悲しみがやってくる。
何もかもは自分の意志とは関係なくやってきて、運命は自分ではどうしようもできないことを知った思春期真っ只中の夏。
少女は少しずつ成長し、この生活を受け入れていくのだ。

スイカ、蝉の声、蚊帳のある寝床、大きな庭のある古い家。
韓国と日本の違いはあれど、ノスタルジー溢れる映像がなぜか懐かしい気持ちにさせられる。

描かれるのは厨二病真っ只中の少女の繊細な心の動きですが、おどけたり、泣いたり、かわいらしく甘える無邪気な弟の存在もまたエッセンスとして生きている。

満点ではないにしろ、互いが互いを思いやる家族の形がとても自然で、無性に家族で集まりたくなった。
人生は生きづらいけど温かい。
人を失う悲しみがあっても決してひとりきりになることはないんだ。
ちろる

ちろる