ザリくん

劇場版「鬼滅の刃」無限列車編のザリくんのレビュー・感想・評価

3.5
「邦画興行収入の長男」となってしまった炭治郎が煉獄杏寿郎と共に2020の鬼を斬る!

これはアニメ関係者達が、コロナ禍の経済危機的最中にある日本国を救う、まさに"シンゴジラ"のような物語の社会現象。
ほんの昔まではアニメアニメしてる漫画映画はメジャーとして受け入れられなかったのに、そんな作品がufotableスタッフを始めとしたたくさんのクリエーター協力の元、低迷した社会から史上最高興行収入を叩きだし、全国をブームに巻き込み、瀕死の日本を再生へ向かわせる使命を十二分に全うした。


静画では高級緻密な作画を置き、ひとたび動きが入れば圧倒的な緩急(音響の緩急も劇場で臨場感をしこたま出せるようバチバチに効いているSE)で観客は迫力に釘付け。戦闘で浮世絵線エフェクトが入るのも面白い。
音楽はあの梶原由紀が紡ぎ出す美しい旋律により無理くり感動モードに領域展開させられる。LiSAの歌も言わずもがな圧巻だ。
べらぼうに高級な作画演出劇伴で視覚と聴覚がかなりリソースを消費するので途中で入る寒いギャグパートも良い休憩となった。

プロの声優が担当しているというのも当たり前ちゃ当たり前だが、邦画トップの歴史の中ではなかったので何か嬉しい。実力派声優はバラエティラジオ等で私生活弄りされてるよりこうしてちゃんと演技にフォーカスしてみてほしい。声優飽和時代だからトップ層は恐ろしい。

鬼滅原作は既読で映画館に行った。原作漫画を読みながら「ここにもっと描写欲しいな〜」と薄々感じていた部分が映像化で全て補完されていて、ufotableとシンパシーを勝手に感じて心を燃やして興奮していた。

ストーリーは普通のジャンプ少年漫画〜て感じ。頼れる上司がいきなり現れていきなり死んだ感は否めない。まあ、バトルものだから自己犠牲で死ぬのはよくあることでしょ。
猗窩座の下手くそな勧誘に1回乗って強化された鬼の力を手に入れた後に猗窩座と朝陽浴びて心中とかだったら精神力すげー!てなったかも。
初登場の時「炭治郎と禰豆子を斬首しようぜ!」てノリノリだったあの株を元に戻すにはもうちょっとキャラクターの個性が足りなかったと感じてしまった。

ジャンプ主人公あるあるで、自分の状況をべらべら実況説明しながら戦闘をしている。
しかし上記の通りアニメーションの地の力で底上げされているので、本来映画では非上品的とされる一から十までの説明台詞は、スタッフ達のアニメに対する炎の呼吸の表情が透けて見えてくるので、まるで絵コンテ読み聞かせのエモい儀式のように思えてくる。
エンドロールで流れる人名の羅列を眺めながら、本当に、人・技術・資本獲得の苦労・アニメへの愛、色々な結晶が詰まった作品だという実感が湧いてきて、そこで初めて涙を流した。みんなでやった感が強いからこそここまで売れたのに監督の名前が世に全然出ないことをポジティブに受け止めた。アニメに関わる全ての人への敬愛と感謝を再認識した。

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追記
これだけ経済面の貢献を褒めておいて、ufotable脱税有罪のニュースを聞いたのでかなり悲しくなった。
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