しん

グンダーマン 優しき裏切り者の歌のしんのレビュー・感想・評価

3.8
『希望の灯り』や『僕たちは希望という名の列車に乗った』などと並んで、近年の東独の記憶を描いたドイツ映画の秀作に並ぶ、素晴らしい作品でした。

グンダーマンはもしかすると都合のいい人間に見えるかもしれません。しかし、彼は「社会主義の理想」(それは労働者の理想かもしれません)に真摯に生きた人間だったんだと思います。だからこそ、あの時代を「個人」のなかった時代と素直に表現したのでしょう。その理想が片方では鉱山を守る被害者であり、もう片方ではシュタージとして活動する加害者となって現れたのでしょう。当たり前ですが、理想は凶器にも盾にもなるのです。

しかし1990年前後で、彼のやってきたことの評価は180度変わってしまいます。そうなったときに、彼はどう振る舞えばいいのでしょうか。私たちにも深い問いを突きつけてきます。「何もしなかった」人が「何かした」人を攻撃するのは常にあることですし、時には正しいことだと思います。しかしその正しさは何を根拠にしているのか、丁寧に考えねばなりません。

本作は時代を行き来しますが、小物や演者のメイクなどのこだわりによって、無理なく理解できますし、主役の生歌も素晴らしいです。それも含めて、大変素晴らしい作品です。
しん

しん