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すばらしき世界のkのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0
映画を観終えてから、"社会の歯車"について考えた。
それは絶えず動きながら、矛盾と理不尽の音をならしてる。人間の耳には届かずとも心に蓄積する音だ。

"社会の歯車"は、昔話などでよく見るあの形ではないと思う。
でこぼこで、ぐちゃぐちゃかもしれない。

それでも上手く回っている。

社会から弾き出された人間も当然この歯車の一部で、三上のような人は空いた隙間に歪な形ではめ込まれる。
これが嫌なら、いつ落ちても良いんだよ。
と言わんばかりに日本が強固にしてしまった"自己責任論"は、いまや歯止めが効かない。

「最終的に生活保護がある。」と無責任論を吐き捨てた菅総理の声が聞こえる。

日本は地獄の濃さを増している。もっと酷い時代はあったかもしれないけれど、絶望を目にしない日はない。

パンフレットの、武田砂鉄さんのコラムが刺さる。
私がもし三上に出会ったなら、三上の輝きを信じ抜けるだろうか。

「撮らないんなら、割って入ってあいつ止めなさいよ。止めないんなら、撮って人に伝えなさいよ!」

本当に伝えるべきは何なんだろうか。
でも不器用な人間を、他人の"選別"の餌食にされたくない。

でも私も、社会から孤立させられざるを得ない人々を、"自分とは違う"と思って見ていないか。

三上が津乃田と施設の子どもたちとサッカーをした後、まるで子どものように泣いても誰も笑わなかった。
「どうしたの?」
なにかを感じとった子どもたちの心配そうな顔が、頭から離れない。

私には、三上がどんな思いで泣いていたのか想像することは出来ない。
そんな簡単に、この単純な三上の思いを汲んではいけないような気がした。
ただ一緒に泣くことだけ。それだけだった。
近くの席のおじさんも、鼻をすすりながらうんと泣いていた。

嘘をつけば心がえぐられる。正義をねじ曲げれば胸を締めつけられる。
それを癒すのがコスモスの香りで良かった。

この光。
心に蓄積した音をかき消すほど強い。
この光のように。

映画を観た次の日である今日、ゴミを捨てに行ってから改めて空を仰いだら、広すぎるほどの青空だった。

「我慢のわりにたいして面白うもなか。
そやけど、空が広いち言いますよ。」
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