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すばらしき世界のmatsucoのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
5.0
まずこの映画を作った、西川美和監督に大拍手…!!素晴らし過ぎる。毎回想像を遥かに超えてくるし、自分自身の経歴をぐんぐん塗り替えてくる作品を作ってますね、素晴らしいのはまずあなたですと言いたい…尊敬しかしない。
西川監督の映画はどれもこれも面白い。でもこの作品が一番好きかも。いやどれも良いし甲乙付け難いんだけどさ…。
役所広司演じる人生の大半を刑務所で過ごしたヤクザ上がりの殺人犯が、13年の刑期を終えて久し振りにこの社会に戻って来て、普通の暮らしをする為に奮闘する。
この映画を観る数日前に「ヤクザと家族」を観ていたおかげで、如何に今のこの世で反社上がりや刑務所上がりの人間が健康で文化的な最低限度の生活をおくることが難しいかが分かるので変に共感ポイントが多かった。でもこの映画はそこだけがポイントでは無い…。
私が散々良作映画の条件のひとつとして挙げている、「魅力的なキャラクター・人間性」を、この映画の登場人物は主人公を筆頭に皆が皆、メインキャラクターから脇役の脇役まで、みんな持っていた。映画によっては、「この人は元ヤクザだからそれっぽい感じに」「この人はスーパーの店員だからそれっぽい感じに」「この人はテレビディレクターだからそれっぽい感じに」「この人は教習所の教官だからそれっぽい…」と、●●っぽいキャラクターにしておけばそれで良い、というキャラクター設定や演出がされている作品も割と多い。で、この映画はその真逆で…。ひとりひとり、詳しく描かれている人は居ないんだけど、家庭環境や生活スタイルやこれまでの経験、色んな人生を生きてきた人達なんだろうと言うことが伝わってくる。そんな人達がひょんなところだったり、たまたまだったり、情だったり、仕事のためだったり、色んな理由から絡み合っていき、小さなドラマから大きなドラマまでどんどん展開を見せていき、もうこっちはスクリーンから目が離せなくなってしまっていた。
役所広司演じる主人公・三上は、経歴が経歴だけに、直ぐにカッとなってしまい手を上げそうになったり手を上げてしまったりして、最初は「やはりこれまでの人生がそうさせるんだな」なんて浅はかに思ってしまってましたが、真面目に生きようとする姿や人に心を許す姿、曲がった事が大嫌いなとこや弱い者イジメが嫌いなところや細かい作業が得意なところなど…徐々に彼の正体が見えていく度に、気になり、人間としての魅力が伝わってきて、直ぐにカッとなる性格にも色々納得がいくようになっていった。犯罪を犯したから長年を過ごした刑務所だけど、刑務所生活が長い分、現代の社会の闇や刑務所以上に地獄だな…と思うような事からは少しだけ遠い場所に居た人間だからこそ、今のこの社会に入っていったときに、色んな矛盾や腑に落ちないこと表から裏まで見えてしまった人間の邪悪さとか三上は耐えられなかったんだろうとも思った。私もそうだし、誰もが、道徳を学ぶことがメインの場所にずっと居て、長年居て、今のこの世界に生きるってなったら精神的に辛いと思う事が多過ぎるから…三上のような真っ直ぐな人間にとっちゃ発狂したくなることばかりだよなそりゃ、と。
そんな三上を助ける人、優しくする人、罵倒する人、面白がる人、色んな人達が登場する。ほんとに色んな人がいるんだけど、優しい人達の優しさには心をえぐられるような良い人達が居て…私は特に六角精児の存在と梶芽衣子の言葉にはやられたね。涙が止まらなくなった。
太賀の立ち位置も、ある意味この映画のエンタメ性を上げるための役どころかと思ってたけど、…あ、そんな風に関わっていくんだ…と意外な方向に進んでいき、結局心がぎゅっとなった。辛いシーンや展開もあるから悲しい涙も沢山出たけど、あったかい気持ちの涙も沢山流れたよ。
こういう重たい人間ドラマって、重たいだけの作品になる場合もあるのに、西川監督は「あー面白い!とまらない!」と最初から最後まで思わせる魅力をたっぷり詰め込んでくる。何度でも観たくなる傑作◎こんな映画、ずるいよ…
2021年を代表する1本!
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