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ある男のmatsucoのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
5.0
上映開始から観終わった今も、ずっとどきどきしているんですよ。私は映画が大好き過ぎて、どれだけ大好きかと言うと、映画を擬人化するとして、映画が恋人だとしたら、私の愛が重た過ぎて多分半年も経たないうちにフられるでしょうなというぐらい、とても重たい愛が出て来てしまうぐらい好きで…。でもそれは勿論、例えば男好きな人が、男なら誰でも好き〜という訳じゃないのと一緒で、映画の中でも、好き・嫌いが勿論あります。
で、本題に入りますと、「ある男」はもう、それは本当にもう、がっつり好きでした。大好きです。多分初めて知ったばっかりなのにもう重た愛が発動しております。で、今どきどきしているという訳です。(何じゃそりゃと思う人いるかもしれませんが、人が、好きになる人それぞれ好みがあるように、映画も人それぞれなのでご了承を)
石川慶監督始めとした製作陣&俳優陣の方たち…全ての人が素晴らしい一本の作品を作ってる事に、脱帽しかないのですが、そんな敬意を忘れてしまうぐらい没頭して観てたなあ。映画っつーのはこうも丁寧に作れるものなんですね…作った事は無いので分からないけど、なんか丁寧な伝統芸能の技を観てる感覚と近いぐらいの作品だったよ。丁寧の種別で言うと、凄腕の料理人が、人間が食べる為に殺した生き物を、死を無駄にしない為にも骨から毛から余すとこなく美味しく料理する、あの丁寧さに酷似しています。
予告編を観ている人は何となくのストーリーが分かると思いますが、愛していたはずの夫が、亡くなった後、違う人間の名を名乗っていた事が発覚して、弁護士に調べてもらう…というお話です。私はこの手のストーリーは正直あまりそそられないっちゃそそられないのですがね、上映開始直前まで、まだ終わってない仕事を置いて会社を後にしたのを若干そわそわ負い目を感じてたのですが、始まった瞬間一目惚れした時みたいに没頭も没頭してしまいましたよ。いやあ…丁寧だなあ…とても丁寧に作られているし、開始数秒で心掴んでくるよね。一人一人の人間が、登場人物が、嘘が無いというか…演技って所謂虚構のはずなのに、この作品に出て来る人達は全員その登場人物の生い立ちを生きてて、まじで感動した。職人技ってこの事なのかな。
妻夫木聡…優しい人間を演じたら右に出る者がいないくらいピカイチなのに、優しさの中にある自己嫌悪やトラウマや罪悪感を垣間見せるのを演じさせてもピカイチですね。かっこ良い。
安藤サクラ…安藤サクラが流してる涙と同じ分量の涙を、劇場で流しました。母として強く生きる姿も、子供も含めた周りの人に少し寄りかかる(頼りにする)姿も、全てが愛おしかった。抱きしめたくなる人を演じていた。かっこ良い。
窪田正孝…元々、影のある人間やストイックな人間を演じるのがとても上手い俳優さんだとは思っていたし、「ふがいない僕は空を見た」で初めて観てからずっと我々を裏切らず真っ直ぐな演技と如実に年々凄く良くなる繊細な演技を見せてくれて…。かっこ良い。
清野菜々…相変わらずこの人も嘘が無い演技が上手いなあ。笑っているのに、笑顔を随時見せるのに、興味深々にチャレンジしたりするのに、心の奥底で本当は、寂しい、悲しい、逢いたい、という気持ちをひた隠しにしている役。顔いっぱいの笑顔なのにふいに見せる、隠している部分が見えてしまう時、こちらは彼女の何倍も泣いてしまったよ。涙を溜める瞳が多分一生心から離れないと思う。かっこ良い。
仲野太賀…数秒でこちらに色んな過去や想いを伝えてくれる演技をするのは神の領域だよ…。さすが石井裕也監督に、日本では数少ない、「その人自体がもう映画」と言わしめた人だね。かっこ良い。
柄本明…ここ最近の柄本明の中でいちばん好きでした。勿論ベテランもベテランなんだからそりゃ上手いよ。しかしこの作品の柄本明は誰もが惚れ直す柄本明だった。妻夫木演じる弁護士との掛け合いのシーン最高。掛け合い方…数秒の狂いも無いのに一切わざとらしさ無しのやつ。これも職人技なのか、それとも映画の神降臨なのか…。かっこ良い。
一人一人への想いを書いていると多分今日眠れなくなってしまうので自分の健康面を考えて一人一人への想いは一旦終わりにして…。
この作品のいいなと思うところは、俳優陣の演技力をひたすらに信じているところだけじゃなく、ちゃんと見た目や中身を取り入れた、言わばもはや当てがきなんじゃ?と思われるような脚本なところ。簡単に言えば、映画は、現実を描いているようで、普通の生活じゃ考えられないとても綺麗な男性女性が揃えられて観せてくる作品物なんだから、観ているこっち側としては【登場人物達はストーリー内容を真剣な顔で演じてはいるけどさ…その前に、「わーイケメンだな!」「うお美少女きた」とか、一発目でまず思うよね…?人間なんだから…】という違和感を抱えて観ることには多からず少なからずあるんだけど、この作品は大袈裟ではないがそれをきちんと出してくれててそこも無茶苦茶魅力的だなと思った。そこ凄く好きなポイント。観たら分かるのでそれを是非感じて欲しいです。
そして、人が生きてく中で、日々の生活やニュース番組や記事を読んで感じる、差別・偏見などの嫌〜な気持ちになる事を練り込んで、生々しい「人間の嫌な部分」とそこから生まれる「違和感」「事件」「展開」から、すーっと心に響く「感動」「涙」「人間愛」を、余す事無く、かと言って押し付けがましくも無く自然な感じに私の心に届けてくれるところもかなり好きでした。
あともうひとつ、アートとかアート系な何かと言うものは私が言えた筋合い無いのですが…冒頭と終わり方、最高過ぎでしょう。鳥肌立っちゃったよ。ある種冒頭から最後の最後まで、ずっとこの作品名の「ある男」というタイトルを回収して回収して、ある男を表現し続けているんだね、この作品は映画は。ストーリーも何もかも感動に次ぐ感動なんですが、ここもですか…(帽子で換算すれば約5000くらい脱帽してるはず)ってもう、感動に対して感動疲労(造語)した困憊な私でした。
これ観た後、色んな場面を思い出すだけで思い出し泣きします。というか、タイトルを思うだけで思い出し泣きします。
あーほんと面白かったな。出来るなら、劇場内で一緒に観ていた人達全員とハイタッチして劇場を後にしたかったぐらい面白かったな。最高の夜ってのはこの事ですよ。今夜も自分の激重な愛に自分でひいております…。感想終わり。
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