トリスタン

すばらしき世界のトリスタンのネタバレレビュー・内容・結末

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

「ゆれる」で大好きになった西川美和監督の最新作をやっと鑑賞。

元ヤクザの囚人が周囲の人達の助けを借りながら
社会復帰する感動作!

...なんて生やさしい作品では無かった。


元殺人犯が社会復帰するという文字列だけで
苦労するだろうなぁと想像はしていたが

殺人の経緯も少し複雑な上に

主人公の生い立ちが、親の無責任によって
孤児院→非行に走る→少年院→ヤクザと...
自己責任と言い切ってはいけない何かがある。

ちょっとした出会いがあれば
主人公の人生が現在とは違っていたのではと思うとやり切れない気持ちになる。

介護施設で障害を持つ社員が同僚から暴力を受けているシーンでは
社会で生きていく上では、自分を曲げるような選択を迫られるというリアルな生きづらさが伝わってきた。

同僚が悪意に満ちた障害者のモノマネをしていた直後に優しい声で老人を介護するシーンは背中がゾワゾワした。

人間だもの。
誰かが完全に悪いわけじゃない。
それぞれに事情があって、そうなっているだけなんだ...と言われている気がした。


三上さんの人生に救いはあったのか。

虚無感を抱えながら見上げる澄み切った青空...
ラストに表題を持ってくるあたりが憎いし、流石だなぁと思う。

やはり
「人の人生を、美談で終わらせてはいけない」
という意思を感じた。

今やいつでも何処でも手軽に楽しめる映像作品。
大衆は感動作に涙し、そしてすぐに忘れる。

この作品も美談として消費すれば
ただのエンターテイメントで終わる気がする。
(映画だから娯楽作品と捉えるのが正しいかもしれないけど)

残酷な結末に対して
あえて「すばらしき世界」という表題にしたのは
〝本当にこの世界はすばらしいのか?〟
と、見る人へ問い掛けたかったのではないか...


でも僕はこの作品から、この世界に少しばかりの希望を感じました。
つい美談にしてしまいそうだから、書かないけど。