okapi

すばらしき世界のokapiのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
主人公の三上を、他人事として、物語の中の人物として見ることができなかった。それくらいこの作品は目を背けたいほど酷な現実をリアルに写していて、生きづらさを背負った人達にはあまりにも社会は優しくない。

三上のように抑えられない短気な性質というものではないが、生きづらさを感じる性質を私もいくつも抱えているし、不器用だから余計に感情移入をしてしまった。好きでこうなったわけじゃない。環境や生い立ち、辛い過去、遺伝、要因は様々だ。

逃げていい、諦めていい、適当に生きればいい、このようなセリフが劇中に出てくる。それができれば、三上はもっと普通の人生を全うできたはず。それができないのだ、頭でわかっていても。悲しいけれど、彼はそうゆう生き方しかできないのだ。
三上のコントロールできない短気な性質(性格ではない、もっと病的なもの)、人並外れた正義感は他人がどうにかできないほど、とても強いことが役所広司の演技力でまざまざと伝わってきた。

でも、三上は魅力的だった。必死に自分と戦っている様子は、みじめにも見える時もあるし、滑稽だな、バカ真面目だな、って思う部分もあるけど、彼に小さく暖かな輪ができていったように、とても魅力的だった。
実際にいたら怖い人でもあるけど、私も人にフィルターをかけないで本質をちゃんと見抜いて接してゆきたい。

しかし、自分を曲げないで正直に生きるのは確かに生きづらい。セリフにもあった、娑婆は我慢の連続だよ、と。
三上より上手く生きているように見える人達の助言を受け入れ、すんなり実行できたら苦労しないよ。と思いつつ、ちゃんと周りの助言は受け入れて、闘って努力はしたほうがきっと凄く苦しい場面もあるけれど、平穏には生きられるのだろうな。

ずっと死ぬまで自分の心と戦い続けないといけない。しんどいな、そうゆうふうにしか生きられない世界は果たして素晴らしき世界なのかな、と思いつつ、娑婆から出た三上にとって、ほんの少しでも素晴らしき世界だと、そう思える場面があったのなら嬉しいなと思う。
周りのみんなからのささやかな親切、最後の秋桜、ずっと密着していた太賀の未来を突き動かした現実が、この映画の数少ない救いだと思う。

でもやっぱりタイトルに少しの皮肉とやるせなさも感じざるを得ない。
そして様々な女性達の発言が、作品のキーになっていたことが興味深い映画だった。
okapi

okapi