螢

ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像の螢のレビュー・感想・評価

3.7
芸術の価値の曖昧さと作為性というシビアな命題を扱いながらも、丹念に撮られたことがわかる映像と構成で、ある家族の心と関係の再生を描がいた、良質で味のあるフィンランド映画。

流行らない画廊を細々と営む老人オラヴィ。仕事にかまけて家族を顧みなかったことで長く疎遠になっていた娘からの依頼で、職業体験として孫息子のオットーを預かることに。

折しもオラヴィは、オークションの下見会で、作者不詳の絵画に目をつけたばかり。
彼は一目見てその絵を、ロシアの大家レーピンの作品だと直感した。
けれど、絵には署名がなく、確証が持てない。画商仲間にも、それでは売れないと言われてしまう。
それでも自分の直感に自信のあったオラヴィは、オークションまでになんとかレーピン作であると突き止めようとする。けれど、アナログオンリーな「じいちゃん」は図書館で画集をめくることぐらいしかできない。
そこに、行動力と悪知恵が働くオットーが、ネットその他を利用してじいちゃんをサポートして…。

正直、拗れた虚栄心と金に目が眩んだが故にひどいどころかクズ全開の行動をとる中盤のオラヴィの姿には、少なからず、いや、かなり腹が立ちました。娘がブチ切れする気持ちホントわかる…。

でも、変に納得する自分もいて。
画商にとっての絵画は、ギャンブル的側面がある投資商品。しかも、視覚的・品質的には何一つ変わらないのに、「有名画家の名前」と付随する「ストーリー」という不確かなモノが「お墨付き」を得るだけで、仕入れ値の何十倍もの金額で好事家に売れる。長年そんな物を扱っていると、どうしても買わなきゃ…と思うのかも。

よかったのは、オットー君が、そんなじいちゃんの性質をなんだかんだで引き継いでいた、相性ばっちりの孫であったことでしょうか。彼は将来、じいちゃんを超える、したたかでやり手の商売人になりそうだ…。
二人並んで美術カタログをめくったり、美術館でオットーがオラヴィから解説を受ける姿は、心温まります。
手を繋いで歩く老人と幼子の絵を、これまでの生とこれからの生の対比だと語ったのは、オラヴィとオットーのことでもあるよね…。

ラストは決してハッピーエンドとは言えません。けれど、家族の再びのつながりがもたらしたことによる救いが確かにある、切なくもしみじみと胸に残る作品でした。
螢