KnightsofOdessa

楽園の果実のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

楽園の果実(1970年製作の映画)
2.5
[] 50点

1970年カンヌ映画祭コンペ部門選出作品。『ひなぎく』以降、国内での仕事は難しくなったが、完全に不可能というわけでもなかったらしく、プラハの春以前に滑り込みで撮影できた一作。ヒティロヴァはその後1976年に"映画館の入場者数が減ってきたから"という理由で再許可が出るまで、映画撮影を禁止された(その間に正体不明のTV映画は1本だけ撮ってる)。さて、そんな背景を持つ本作品は、アダムとイヴの物語を、サイケデリックにアレンジしたシュールな寓話である。いきなり葉脈と全裸の男女のオーバーラップから幕を開け、聖歌隊が創世記の一節を歌いながら失楽園に導くという純度100%のアヴァンギャルドさに驚く。続く寓話パートでは、アダムとイヴ夫婦を模したヨーゼフとエヴァ夫妻が、楽園のような森の中でロベルトという悪魔に誘惑(物理)される物語が展開される。正確にはエヴァがよく遊びに来るおっさん(ロベルト)に惚れて追いかけ回す。ロベルトはブロンド女性を殺して回る殺人鬼だったために、三人の関係性は常に二対一となって緊張感を孕み続ける。冒頭以外は示唆的でメタフォリカルな映像を並べながら、抗うことの出来ない誘惑(≒失楽園の原因となった"楽園の果実")に晒されるエヴァを描いている。ただ残念ながら、『ひなぎく』の純粋な狂気を観てしまうと、本作品の狂気は物足りないし、印象的なショットも少ない。終盤の魚眼追い回しは良かったので後味は良いんだけども。
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