HAYATO

第七の封印のHAYATOのレビュー・感想・評価

第七の封印(1956年製作の映画)
3.4
2025年44本目
人間はいかにして死を受け入れるのか
スウェーデンの巨匠・イングマール・ベルイマンが、土着信仰とキリスト教信仰が混在する中世ヨーロッパを舞台に、十字軍の遠征から帰途についた騎士と死神の対決を通して人間の生と死、そして神とは何かを問いかけたファンタジードラマ
長年にわたる十字軍の遠征から帰還した騎士・アントニウスは、死神を相手に生死を懸けたチェスの勝負に挑むことに。故郷への道中、アントニウスと従者のヨンスは数々の出会いを重ね、迫り来る死に脅えながら旅を続けるが…。
出演は、『エクソシスト』のマックス・フォン・シドー、『野いちご』のグンナール・ビョルンストランド、『仮面/ペルソナ』のビビ・アンデーションなど。第10回カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。前作『夏の夜は三たび微笑む』と本作の2作続けての批評的成功は、ベルイマンの世界的な映画監督としての声望を不動のものにした。死神とのチェスのシーンが非常に有名であり、本作品中の死神のイメージは、その後様々な映画やテレビドラマにおける死神像に影響を与えた。
ペストが蔓延し、人々が死と終末の恐怖に怯える世界で、騎士・アントニウスは、自らの信仰と向き合いながら死神とチェスをする。ベルイマンが幼少期に父に連れられて訪れた教会の宗教画に着想を得たという本作は、映像的にも内容的にも深い象徴性を帯びている。
本作における最大のテーマは「神」とは何なのかということ。十字軍から帰還したアントニウスは、信仰を持ちながらも神の沈黙に苦悩している。教会で彼は死神に向かって「私は神を知りたい。神が沈黙しているなら、人間はどうすればいいのか。」と叫ぶ。この疑問は、20世紀の哲学、特に実存主義の命題と重なり、ベルイマン自身の宗教観とも密接に関わっている。
死を擬人化した死神とのチェスの対局は、本作の中核を成す象徴的なモチーフだ。死神は冷徹でありながら、どこか人間的であり、騎士とのやり取りの中にはユーモアすら感じられる。このチェスは、人生そのものの比喩であり、アントニウスが神の存在を確かめるために費やす最後の時間を象徴する。だが、彼の探求は実を結ばず、最終的に敗北し、死を迎える。
物語の中で唯一死を免れるのが、旅芸人のヨフとその妻・ミア、そして幼子・ミカエルの一家。彼らは純粋な愛と芸術を体現し、幻想と現実の境界を軽やかに生きる存在だ。彼らの存在は宗教的な象徴とも捉えられる一方で、彼らは旅芸人であることから、ベルイマンは宗教ではなく、芸術こそが人間を救うのだと示唆しているとも考えられる。
本作の最も有名なシーンは、ラストの「死の舞踏」。丘の上で、死神に手を引かれた人々が踊る姿は、死の不可避性を示しながらも、どこか優雅。これは中世ヨーロッパで実際に広く流布した「死の舞踏(ダンス・マカブル)」のイメージを踏襲しており、人間の生と死の永遠の巡りを暗示している。ベルイマンはこの終幕に悲壮感だけでなく、ある種の諦念と受容の美学を込めている。
モノクロの映像美は、本作の哲学的テーマを一層際立たせる。光と影のコントラストが強調され、死の象徴である死神の姿は極めて印象的に映し出される。ベルイマンは、シンプルながらも力強い構図を多用し、登場人物の表情や仕草を通じて、言葉以上の感情を伝えている。
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