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花束みたいな恋をしたのnatsumixのレビュー・感想・評価

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
5.0
公開初日舞台挨拶と翌日の即おかわり。

坂元裕二脚本のリアリティーと土井裕泰監督のエモーショナルを掛け合わせた映像に、大友良英劇伴のブルースが寄り添って菅田将暉と有村架純が彩った作品を浴びる、とてもハイカロリーで贅沢な124分。

まず試写の時点で観た人のレビューが二極化してたのがとても興味深くて。菅田将暉くんも「土井さんのドキドキは多分伝わるけど、坂元さんの情緒は伝わるかな…」て予告してくれてたその意味がよくわかった。

そもそも本予告や前情報で、既にこれだけ物語の起承転結が語られているという意味を考えると、「これガチで挑まないと本編の情報量に脳が追いつけなくなるやつだ…!」ってなって、事前に発売されたシナリオとノベライズとフォトブックを主演役者ばりに叩き込んでから観たんだけど、それでもいざ映像化された本編を観たら、もう悲鳴をあげるしかなかった。

だって宣伝であれだけ「純度100%のラブストーリー!」とか煽って、オシャレクリエイターやブランドとコラボして煽って、実際観に行ったら「やめて!わたしの中に入って来ないで!」て惣流(式波)・アスカ・ラングレーばりに叫んで精神汚染される恐ろしい作品ですよ…これネタバレを避けて観てたり、これから観ようとしてる人がいたらマジで勇者だと思う。

まず物語で言うと、恋の始まりのときめき、恋愛ピーク時の幸福度、理想と現実、自分の限界を知る事への恐怖、育った環境と置かれた立場の違い、時間の経過による意識の変化、家族の干渉、友人や職場の人間関係、徐々に狂ってゆく歯車、罪悪感と自意識、死んでゆく感情、意思と反比例する言動、恋愛と結婚の境目、そして。っていう人生前半の全てが詰まってる。

もうひとつは全編に常に散りばめられてるカルチャー!ファッションもアートも音楽も漫画も小説もゲームも、自分のこれまでの人生で、その時々選んで大切にして来たものが全部浮き彫りにされるっていうね…もうニヤニヤを通り越して恐ろしかった。

だって部屋を見渡して「ほぼうちの本棚じゃん」て、それこっちのセリフですよ。スチャTやナンバガTやザゼンT着てジャックパーセル履いてたりとか、もう絶対そこらのフェスやライブハウスですれ違ってたでしょ。

勿論、会話の意味やキーワードがよくわかんなかったという声も多くて。でもご安心ください、表紙はマルマンスケッチブック、重要キーワードを図解入りで網羅、アイテムの綴じ込みレプリカ、本編でも使われた浅野ペコさんのイラストが随所にちりばめられた装丁がとんでもなく素晴らしいパンフレットがあります。

他に楽しめるポイントとしては、読ませる行間と畳み掛けられる皮肉という、坂元裕二脚本作品あるある。

特定のカルチャーに対して熱く語るマジョリティにマイノリティが向ける「わかってないな~」の目線。
それは麦くんと絹ちゃん2人自身にも、それを見ている観客にもブーメランとして刺さってくる。ほら、これを読んでるあなたにも身に覚えがあるでしょう?

だから坂元さんがあえて「ターゲットにしてる層は高校生」って仕掛けてた事も、要所要所で淡いフィルターがかかる映像も、時間の経過を実際の漫画や動画の作品を追う事でなぞられてるのも、本当に鬼すぎて…

だって大人のわたしでさえ情緒がバグって、誰よりも早く劇場を出て、寒空の下しばし無言で東京タワーを呆然と眺めてたくらいだから、こんなん高校生の時に観たら間違いなく笑顔で発狂してしまう。

あとこんなに長々書いて菅田将暉くんと有村架純ちゃんに触れてなかったけど、今回はあて書きだけあって、この2人にしか出せないさすがの空気感だった。

劇中ずっと「これどうして映画なんだろう…こんなの数時間じゃ足りなすぎる、5年間の物語なら5年かけて連ドラで味わわせてくれよ…」って脳内で遺言を遺しながら観てたし、帰宅してまず「カルテット」をオールナイト一挙上映したもんね(そこは「いつ恋」じゃないんだ?というツッコミをセルフで)。

しかもそんな煌めく2人でさえ、新世代の細田佳央太くんと清原果耶ちゃんの前ではああなるっていうね…

更にそこからの「我々のこれまでの道のりは美しかった。あと一歩だった。(ジュリオ・セザール)」ていうセリフが来る深さ!この作品の真髄はここにある。とか語り出すタイプの人にこそ観てほしい。

あらゆるメディアやSNSで毎日のようにどこかで誰かに語られている本作、こんなに様々な人が観て考察されている事が本当にすごくて、色んな意味で観た人みんなに幸あれと思ったので、それまでの自分の歩みを振り返って情緒を狂わされたい人は是非劇場で。
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