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護られなかった者たちへのnatsumixのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
4.3
わたしの中の最高佐藤健記録が更新されました。

「ハード・コア」然り「ひとよ」然り、要するに「お茶の間に向かって目を細めて甘い言葉を囁く佐藤健」よりも、「スクリーンで目をギラつかせて過去を抱え泥水を飲まされる佐藤健」の方が断然輝いて見えるんですね。千鳥と遊んでる時の佐藤健も輝いてるけど。

とある殺人事件の容疑者として浮上したある若者と彼を追う刑事。捜査を進めるうちに絡んでくる人達と、登場人物全員の前後に立ちはだかる「東日本大震災」と「生活保護」という目を背けられないテーマ。

今を生きるわたし達が本来目を向けるべき人は誰なのか、という事をとても考えさせられる、もはやキャスト関係なく義務教育として観た方が良い作品。

ただ「魂が、泣く。」というコピーがね、こういうコピー付けるだけで警戒しちゃうわたしみたいな人もいるし、そもそもこの作品は泣く為に観る作品では決してないから、公式がその方向に誘導しちゃうのどうかなーと思っちゃった。泣くのは観る人の自由なので…

勿論、そういう目的で映画を観る人がいる事も知っているし、観る側のその行為自体を否定はしないけど、この作品が提示しているテーマは涙で消費したり過去として終わらせてはいけないと強く思ってる。

あとですね、これ今やってる朝ドラ「おかえりモネ」を楽しく観てる人にこそ観てほしいと思いました。

お茶の間では見られない新しい清原果耶ちゃんをこの作品でまた観られて感激したし、同じ意味でスクリーンの清原果耶ちゃんが最高に光る「デイ アンド ナイト」も是非セットでどうぞです。配信あるよ。

ついでに言うと、モネの妹役のみーちゃんこと蒔田彩珠ちゃんもようやくお茶の間に浸透しつつあるので、この機会に全力で「朝が来る(河瀬直美監督)」を推したいです。これも配信あるよ。

話を戻すと、あとはもう永山瑛太先輩ですよ、瀬々監督作品における永山瑛太は絶品で、詳細は本編観てくださいとしか言えないけど、同じ瀬々監督作品の「友罪」に続いて今回もひれ伏すレベルの圧倒的なお芝居で震えたね。「友罪」も素晴らしいので是非。

阿部ちゃんと遣都くんの刑事バディもバランス良くて、物語が進むに連れて成長がわかる遣都くんのお芝居がもう流石だったし、最近の阿部ちゃんの頼もしさといったらこれ観ただけで東大入れそうだし(入れない)、倍賞美津子様は「糸」に続いて若者の心の拠り所ポジションとしての存在感が群を抜いてたし、緒形さんは嫌味を言えば言うほど、吉岡さんは眉毛が八の字になればなるほど、その輝きが増すんだよね、もう全員立ち位置が完璧でため息出ちゃう。

立場が変われば考え方も変わる。この作品に登場する人はそれぞれの正義を全うしただけで、ただそれだけの事なのに、どうしてこんなに胸が詰まるんだろう。そして、もし自分がそれぞれの立場だったら、どう考えどう動くのだろう。答えはまだ出ない。

いままでとこれからという歴史や社会を考えつつ、倫理観や道徳心や想像力を鍛えられる、観るタイプの教材です。是非劇場へ。
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