シェパード大槻

花束みたいな恋をしたのシェパード大槻のネタバレレビュー・内容・結末

花束みたいな恋をした(2021年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

最悪のムーブメント。「花束みたいな恋をした」、嫌い。嫌いというのは好きと同じくらい関心を寄せることだから、関連の記事や番組を渉猟したし、本編は2回見たし、こうやって好きな映画にも書かない量のラブレターを書いている。きも。以下悪口。
まず、名作のような広告を打ったわりには消費映画的なディティールが嫌だった。名作みたいなプロモーションをした、に改名してほしい。お揃いの靴を写すカットは計4回もあり説明的すぎるし、冒頭とエンドロールに使用されたスケッチブックを模した背景は、むぎくんが絵描き志望だからとはいえチープだし、好きな本や音楽の固有名詞の一致もあまりにやりすぎだし、別れ話の場面で近くに昔の二人に酷似したカップルがいるのもダサい。固有名詞と酷似カップルに関しては 「ありえなさ」もさることながら「全く同じものを並べる奥行きのなさ」が嫌だった。人と人、 出来事と出来事の間にある見えざる関係を解釈していくのが映画ではないのか。どうして解釈の余地を奪ったのか知りたい。恋が始まるシーンでは、「むぎくんの絵好きです」という言葉とドライヤーで髪を乾かしてくれたことにお互いときめくことが強調されるけどこれに関しては、軽薄な恋愛あるある動画を参照したと言われても信じる。映画が芸術を降りて商品になる変遷を追った年表に載るべき映画。
次にサブカル文化について。文化鑑賞とは、作品を通してそこに朧げに映る自分を見つめることであって決して固有名詞をダシに他人と結託するためのもんじゃあないのだ、と思っている。本作の最初のセリフは、若いカップルを見たむぎくんの「あの子達音楽好きじゃないな」という言葉だけどブーメランでは。サブカルはサブ、なのだから二人があんなに気が合うのは界隈の王道をなぞっている場合しかありえないじゃんうざい。しかも固有名詞が頻出するのに二人ともその内容や解釈には触れないどころか、二人の生活が文化鑑賞体験に救われることはない。
本作はその共感性によっても話題になっていたけどそういう、精神的でもない感覚的でもない事実上の安易なフラッシュバックや感情移入に訴えるのってやだ。 作中に記憶想起装置があったのかは知らないけど他人の問わず語りを聞かされた気分。正直、真実の愛以外スクリーンに写さないでほしい。叶わない恋を扱った映画はとっても好きだけどこの映画は好きじゃない。なぜなら哀愁がないから。そりゃあ悲しいよ、というテンションの悲しさはあるものの、半ば官能的とも言える純の悲しみってものがない。と思った。
もっと単純に言うとむぎくんときぬちゃん、嫌い。バールのようなもの、を面白いとしている浅さと自意識が嫌い。じゃんけんのルールとか高級マンションの広告とかストリートビューを面白がる感性嫌い。こういうコミュニケーションは頻繁にしたい方です、とか言う女の子嫌い。恋愛をポイントカードに見立てる人嫌い。背骨に一本通る信仰は無いがオリジナル名言を言うのが好きな、断言癖のバズツイ的リリシズムの二人、嫌い。むぎくんときぬちゃんには信仰がないから固有名詞の一致を喜んじゃうし、作品の教訓が生活に侵食してこないんでしょ。あと普通にトイレットペーパー持ってるダッフルコートの人嫌い。
本作でよかったと思う点もある。まず題名。「花の名前を教わったら、花を見るたびにその人のことを思い出しちゃう」というセリフは作中では回収されなくて「花束みたいな恋をした」という題名がこれを受けている。と思う。二人には共有した名前(固有名詞)がたくさんあり、見たら相手を思い出す“花”がたくさん束になっているのである。次に間口が広い点。これは先述の消費映画的描写との裏返しにはなるけど誰もが情景から感情や場面を読み解けるのは良いと思う。 消費と生産の対比も良いと思った。文化を消費しているうちはうまくいくのだけれど仕事として生産側にまわるとうまくいかない現実ってあるだろうなと思った。また、労働に耐えることが生きることだと信じているむぎくんを批判できるのは比較的実家が裕福なきぬちゃんの方というのがリアルだと思った。また家庭環境とは別に、後天的に身につけさせられる男性性みたいなテーマもあるのかなと思った。本作には、今は枯れた人たちに対して昔の花束みたいな日々を思い出させるという狙いもあるのかな?まあむぎきぬみたいな奴らは一生幸せになんてなれないと思うけど。制作者は綺麗なものじゃなくてリアルを描こうという意図があるっぽくてそこはかっこいいとは思う。
物語として、むぎくんみたいになるなら先輩のように死んでもいいと思う悪趣味な私がこの映画を 嫌いでも誰に何のダメージも無いと思うけど、移り気な大衆のことなんかほっといて私が好きそうな映画作ってよ♡とは思った。