シェパード大槻

i aiのシェパード大槻のレビュー・感想・評価

i ai(2022年製作の映画)
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スクリーンが隔てる二つの世界を平等に扱っているのが、境界線を無くそうというメッセージに関連していてよかったし、冒頭の映画館のシーンでは観客と演者が重なる効果が印象的だった。ゴダール寺山修司岩井俊二とかインスパイア元が何個かありそう。(質量保存の法則は総体積が一定ではなくね?)緋色だからひい兄なのかな。赤と水色がよく使われていたけど個人的には水色が緑寄りの水色だったらもっと万歳だった。
自分はハードな音楽を好かんからそれを楽しむ人たちは、音楽を手段・熱狂を目的としているように見える。ライブは芸術というより祭の分類にあり、フロントマンはシャーマン的な役割なんでしょうか。それでいてしかし、瑛太の泣き笑いの共鳴はあれはまさしく芸術の司るところの事件であった。
本作では作者の信ずるところをそのまま言うことを大事にしているんだろうけど、それぞれの詩や所作が断片的で、それらを貫いているテーマなり雰囲気なりがつかめなかった。前半は自分を貫いているあるいは貫きたい人の社会との不和みたいな話が中心だったのに対して後半は死の悲しみと受容が中心になっていて、厳密には話題を引き継いでいないと感じた。私の読解力が低い可能性もある。
尖り目の音楽と音楽家がモチーフなのに作家性よりは仲間や思い出にフォーカスされているのが嫌だった。瑛太だけが正しいと思った。ギター燃やすとかタバコずっと吸うとか物質的に破天荒なことを嬉々として描写するのは自分はダサいと思う。瑛太と森山未來の関係が好きだったけどそれは、純に共鳴と渇望だけが本体であって、過去、未来、絆、生活と全く関係がないから、つまり物質的でなく現実的でもないから。
「本当に出会った人とは別れがこない」って当たり前すぎて映画で言うほどのことじゃない。死をあんなにハイテンションで悲しまれたら気楽に死ねないじゃん話通じない。(残された登場人物たちが)死とか幸せとかを信じてるのありえない。そういう紋切型の考えをハイテンションで覆って我が事化してるようではひい兄みたいな変人の孤独を増やすだけじゃないか。ハイテンションの若者の屈託のなさが憎らしいしかかってるまま言葉を紡いじゃう姿勢に不誠実を感じる。なんか文化祭とか思い出すわ。絆が突き放しになることがあると思う。全体的に自分には真っ直ぐすぎた。
自由に生きていく力もない犬を放したって自由にもなれなければ赤い髪で分断も記されているんで苦しいだけ。彼も同じ。
最後のメタが特に顕著だが全体を通して社会の一人一人にこの映画を刺したいという気概を感じて迫力あるなと思った。
自分はマヒトゥ氏のファッションしか知らずに判断していたが思ったより正義感、社会的、素直の人で、見た目重視派の落ち度を自覚した。