ちろる

木靴の樹のちろるのレビュー・感想・評価

木靴の樹(1978年製作の映画)
4.0
パイプオルガンで奏でられるバッハの調べとともに流れる映像はイタリアの農村社会のささやかな暮らしを描く、ドキュメンタリータッチの作品。
ミレーの油彩画のように素朴で温かみのある自然光の光の中で貧しい家族たちが過ごす淡々とした流れは純粋そのもので、それを象徴する、幼い子供達の干し草と戯れる姿は本当に愛らしくてキラキラと輝いていた。
大人たちは月を幼い子どもたちに告げる。
「月がかさをかぶると大雪になる
春に雪がとける
溶けたらその水で作物が育つ。」
季節の流れを読みながら作物や動物たちを育み、信仰と自然から与えられる知恵を重ねながら生活をより良くして、貧しいながらも祈り、歌い、互いを思い合える絆深い家族のやりとりに優しい視点がうかがえる前半の映像から、一挙に突き落とされるような救いのないラストシーンの対比は、「自転車泥棒」を観た時のような殺伐とした気持ちにさせられてしまった。

若き新婦のマダレーナが、新郎新婦が船に乗ってミラノに向かう時に見つめる景色は、うっとりとするほど美しくて、この作品の中での微かな希望のカタチのように見えて印象的だったし、引き取った孤児を抱く姿は聖母のように清らかなシーンたった。
しかし作品のパッケージてある幼いミネク役の少年がものすごく可愛いのに、台詞も登場シーンもかなり少なかったのでそこはちょっとだけ残念。

家族のために必死で働きながら、地主による搾取に為すすべもない父親悲しみの姿と、それを見つめるミネクのなんとも言えないラストの不穏な表情に一気に遣る瀬無い思いにさせられる非情なストーリー展開は、まさしくネオレアリズモの流れを汲む作品なのだろう。
ほぼ、エンタメ性ゼロの淡々とした映像が3時間以上あるので、観るのにかなりの忍耐も必要とされる作品ではあるけれど、登場人物全ての祈りのような一つ一つの生き方に心の琴線が触れられる、秀作ではあったと思う。
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