フェミ研ゼミ

カモン カモンのフェミ研ゼミのレビュー・感想・評価

カモン カモン(2021年製作の映画)
5.0
マイクミルズの映画には
具体的で抽象的な設定の中に
抽象的で具体的な感情があった。

私は今日、双子の子育てとフルタイムの仕事の両立や、山積みになっている家事、突然の寒さににやられて疲れ果てていた。
もちろん月曜日の朝の地下鉄に乗ることができなかった。

お風呂にも入れず疲れ果てて眠ってしまってスタイリング剤がついたままの重苦しい髪のまま子どもたちを保育園に送り届けた。
わたしは今日だけ自分のことを専業主婦だと思おうと思った。

久しぶりに映画を借りにTSUTAYAに行って久しぶりにサブスクではないディスクの映画達に再会してドキドキとワクワクを感じた。

カモンカモンは大好きなマイクミルズの映画だったから劇場で観たかったが日々に追われて気付くとレンタルが始まっていた。
双子を産んでからそんなことばかりだなと思う。

私はひとりで行動することが楽で好きだ。趣味なんてものは特に無いんだけど好きな監督の映画を観たり、一人でラジオを聴いてオススメの本を買ったり、たまに気の合う友人と会う。
たったそれだけで心豊かに過ごせていた。
でも子どもがいると「たったそれだけ」がなくなる。
そんな日々が当たり前になると飯も何にも味を感じなかったり、今日みたいに突然地下鉄に乗れなくなったりすると、子どもが居ない方が幸せだったかもと思うことが幾度もあった。

今日この映画を観て、私のそんなカモン、カモン(先へ、先へ)とは思えないような気持ちが救われた。でも悲しさもここにある。

マイクミルズの映画はいつも悲しい。
温かいのに悲しいとか、冷たいのに明るい気持ちとか矛盾した救いがある。

例えば、今これほど必死に働いて子どもたちをようやく生かしている日々も子どもたちは覚えちゃいないんだよな。と思う。


昔仲良くしてくれてた仕事仲間の子どもたちももう小学生や中学生になって私のことなんぞ覚えちゃいないんだよなと思う。
それってすごく寂しい。
子どもと大人の時間の流れの違いは仕方ないって思うけどすごく寂しい。

映画の中で、甥と伯父のジェシーとジョニーの二人きりの日々を描いていく。
戸惑いながらも徐々にお互いを慈しみ合う関係を築いていく。そんな奇跡の様な時間すらジェシーは成長ととも覚えていられなくなるだろうなとジェシーは思い「ジェシーはこの日々のとこを大きくなったら忘れてしまうね」と口にする。
「僕は覚えているよ。」とジェシーは寂しさと怒りをない混ぜにしたような目で言った。そこには、“忘れたくない”という強い意志があって私はポロポロと泣いてしまった。

それに、眠っているジェシーを起こすでもなく母親が、「大好き、大好き、大好き」と囁きながら優しく顔中にキスをするシーンにもポロポロと泣けてしまった。

ジェシーの母親もまた、子どもが居ない方が幸せだったかもと思っているはずなのに、子どもの顔をみると自然と「大好きだ」と口から溢れてしまう。

私は子どもを産んだことを後悔したことも何度もあったけれど、この映画を観て子どもたちといる時間や子どもを産み育てるという経験がなければ私の世界はちっぽけなままだったろうと容易に想像できる。

子が巣立ったあとの人生の愁い、そもそも人は一生ひとりであるのだという「20センチュリーウーマン」の後にこの映画を撮ってくれたことがありがたくて、有難い。

映画の中のアメリカ各地での子どもたちへのインタビューが本当にとてもよかった。子どもたちの方がよっぽど大人だった。
余韻が酷くてまだまだ専業主婦の時間を延長したいのだけれど、外はもう暗い。
保育園へ双子を迎えに行かねばならん。

専業主婦の日がおわる。
双子たちと歌いながらまた家に帰ってくるわけで、
本当に大変で本当に愛おしい日々なのだ。
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