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ミッドナイトスワンのmimimomのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.0
※ネタバレになる可能性あります




気にかけられる相手がいるということは、最高に幸せなことだと思った。

ナギサは親の役目を果たしていた。「自分が親だ」という自覚はないにしろ、保護する立場から見て、本能的にそれを習得していた。進路のこと、健康のこと、礼儀作法のこと、実の母親が気にかけていなかったことである。しかし、女手1人でイチカを育てる苦労を思うと、母親の精神的な余裕のなさも仕方ないとも思う。
自分の性質を故郷に知られたくないにもかかわらず、イチカを呼び戻しに実家に乗り込むナギサ。その時に、イチカがナギサについて行かなかったことが少し残念だったが、とりあえずあの環境で義務教育を終えてしまう事を選んだのは今にして思えば妥当で安全だったと感じる。故郷でナギサが追い出される時、母親がナギサに「ばけもの」と言い、ツバを吐く。これがあの母親の本性である。この時私がイチカのように、母親に椅子をぶつけたかった。いくら「私は変わった」と言っても人はそう簡単に変われるものではない、このシーンで一気に母親を信用できくなった。また、ナギサのような人に対し「ばけもの」と言ったり「病院で治して」と言ったり、そのような偏見に満ちて、知識不足で、閉鎖的な田舎にいてもイチカにこの先ロクなことはない。ナギサの「こんなところにいるべきではない」というセリフは私も本当にその通りだと思った。
海外での手術の経過が悪く、イチカが次にナギサに対面したときは、変わり果てた姿に。おむつ替えのボランティアの人は救急車を呼ばなかったのだろうか?どうしてもあの様な状態で過ごさなければならない納得する理由が欲しかった。心の性別と見た目の性別は、どうしても合わせないといけないのだろうか?肉体的にハイリスクな処置をしてもどうしても切除したいのだろうか?手術台に乗せられているナギサの横顔が、余計なものを取り除き清々しているような表情に見えた。正しく頑張ってきたナギサが亡くなったのは残念でならない。草彅剛が役になりきっていた。美しい歩き方。トレンチコート。イチカを見つめる母性に満ちた視線。
ナギサのような人たちが、自分をいつわる事をせずとも多様な職業の選択肢を持てる世の中になればいいと思う。

それと普通にやったら暴行罪だけど、イチカがキレて相手に椅子をぶつけるシーンはどうしてかスカっとした。
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