ベルベー

ファーストラヴのベルベーのネタバレレビュー・内容・結末

ファーストラヴ(2021年製作の映画)
2.9

このレビューはネタバレを含みます

作り手の技量が試されまくるフォーマットに挑んだなあ…。

本読んでも映像作品観ても毎回思うのは島本理生って文豪だよね。人に傷つけられ人を傷つけてしまう自分を自嘲しながらも「その生き方を変えられない」とある種開き直っているような…芥川とか太宰の精神を一番受け継いでるのは彼女だと思います。

本作に関しても彼女の作家性がバリバリ出てて、過去の父親の愚行のせいで酷い心の傷を負った主人公には同情するものの、だからといって中村倫也と窪塚洋介を傷つけていいことにはならないだろ!?とその身勝手さに共感できなかったりする。芳根京子が罪を犯したかどうかは実はサブプロットで、主人公「が」傷つけられた経験とどう向き合うかに本質が在ったりする。

それこそ島本理生の強烈な作家性であり、唯一無二のものではあるので、好き嫌いは別として興味深いなあと感じているのですが。その結果サスペンスは割とおざなりだったりするので、それでいいのかとは思う。

未成年の女性に対する男性の無遠慮な視線というのを、ここまで鋭く描くの素晴らしいなと思いつつ、その視点が主人公と夫とその弟の歪なラブストーリーにはあまり反映されていないのも惜しい。そしてそんなに男性の視線がトラウマになっている女性がなぜアナウンサーを志望するのか?もう少し分かるように描いてもらえないことには、こちらも歩み寄れないと思ったり。

近年はシリアス路線の評価が高い堤監督。実際「人魚の眠る家」とか「望み」を観るとシリアス向きだと思う。が、本作は上記の通りクセが強い原作なので…余程監督の作家性と合致した、とかがなけりゃ見応えを出すこと自体が難しいのでは。

そこに至ると、ことシリアスの堤監督は手堅くまとめる人なので本作を異色作にすることは出来なかったのでは。黒澤明とか野村芳太郎とか是枝裕和が過去に手掛けているジャンルなのも部が悪い。音楽の使い方それでいいの!?とか、芳根京子の撮り方そんなもんでいいの?とか思ったこと。

決定的だったのが裁判シーン。作家性が良く出るシークエンスの筈なんだけど、ううむ作家性が見えない。工夫の仕方によっては面白くなる筈なんだが。もっと外連味出しても良かったと思う。

俳優陣では窪塚洋介が凄え上手かった。ずっとテンション変わらないのになんで喜怒哀楽が伝わってくるんだろう…。
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