りょう

ファーストラヴのりょうのネタバレレビュー・内容・結末

ファーストラヴ(2021年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

女の子の友人曰く「この映画を見た男と結婚したい」そうだ。この映画を見る前にそう言われ、そう思わせるような作品の内容かんなを想像しながら映画館へと足を運んだのだが、自分が男であることを恥じずにはいられなかった。なんでも性の対象として見てしまう男というものの汚らわしさをあそこまで鮮明に映すと、ここまで恐ろしく悍ましいものになるのだと知らしめられた。

あらすじはこうだ。主人公のユキは夫の弟であるガショウという弁護士と父親殺しの犯人とされている聖山カンナの罪を軽くするため、彼女の意味深な「動機ならそっちが探してください」という言葉をきっかけに彼女の本心と過去を探っていく。そうしてカンナの心を探るうちに、ユキは自分の過去をカンナへ投影しながらも真実へと近づく。

この作品は女性と男性の登場人数に偏りがすごい。圧倒的に男性が多くなっている。主に言葉を発した女性はユキ、カンナ、カンナの母アキナ、この三人のみだ。これは極力女性の影を薄くして、男性にフォーカスを当てる働きがある。この作品の肝になっているのが男性の内に潜む闇だ。この闇がこの作品の不気味さを引き立てるスパイスになっている。しかし女性の闇にもフォーカスを当ててしまったら、そのスパイスが薄まってしまうので女性の登場を極力少なくしているのだ。

心理学を学びたいと思っている私は、少し個人的に心理学について勉強をしていたため、自分が持っている知識とこの作品にはいくつか重なるところがあった。

一つは、カンナの心が歪んだ背景には様々な男からの性的干渉と親の不助がある。小さい頃に受けた性的虐待が原因で精神障害になることやトラウマが生じることは心理学において有名な話ではあるが、それと近しいものがこの作品にはある。幼かった頃のカンナに向けられる目は常に女として向けられる目線ばかり。具体的に性的虐待とまではいかなくとも、男性が視線だけで不快感を与えることができるのは女性なら理解できるのではないだろうか。下心のある視線というのはどこが目の奥が濁って見えてしまう。しかし男は無意識にもそういった風に女性の体を見てしまうことはあるだろう。そういった自分の行いを客観的に、しかも圧倒的に女性が被害を受けている状況から見ると、ここまで自分は汚らわしく気持ちの悪い生き物なのかと思い知らされるような気分になった。あんな澱んだ瞳で女性を見ていたとしたら、心底自分が嫌いになる。

もう一つは、自分にとって辛い過去、都合の悪い過去というものは記憶から消されるということだ。実際私自身も同じ経験をしたことがある。ではなぜ消したはずの記憶について認識できているのかというと、そういった消した記憶というのはふとしたタイミングで思い出してしまう。ユキが幼い頃にダッシュボードで見た売春の写真、カンナの恋愛遍歴など、本人達は無意識のうちにこれらを記憶を都合の良いように捻じ曲げ、消去していた。しかし、一度思い出してしまうとそのことが頭から離れない。何度忘れようとしてもふとした時に浮かび上がる。今でも気分が悪くなる。

こういった過去の出来事をどうしてか我々は新しい恋人に話さなければならないという義務感を感じる。それを話したところで相手を幻滅させる可能性があるのに話したくなる。これは相手にそういった自分の悪い過去も認めて欲しいという思いと、相手に隠していると思う罪悪感からの解放と、共通の敵を用意すること、相手と共有することで自分1人で抱えることから解き放たれるという4つの理由が考えられる。

ユキがカンナに自分の過去を投影したのは、ユキとカンナに共通点が多かったからだと思われる。作中で触れられていない共通点はカンナも始めの方は人の心を読んでおり、ユキも心理学者として心を読むという点で似ている。

今まで女性に対し酷い扱いをしたきた人というよりかは、過去に犯罪スレスレのことをしてきた男性に刺さる映画なのではないかと個人的には思う。
りょう

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