ShinTakeuchi

ぶあいそうな手紙のShinTakeuchiのネタバレレビュー・内容・結末

ぶあいそうな手紙(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

老人と若者の交流を描いた映画ではない

傑作。
本作は主人公が住むアパートメントに、内覧客が訪れているシーンから始まり、主人公が新たな家に住み始めるシーンで終わる。
そうだったのか!

そう、本作は「老人と若者の心温まる交流を描いた映画」ではない。
故国に残してきた若き日の淡い恋の想い出が徐々に明らかになる、50年越しの遠い遠いラヴストーリーなのだ。
なんと、スイートでキュートな映画なのか!
観終わって、この緻密に練られた脚本に驚いた。

演出も素晴らしい。
セリフなしで登場人物たちの行動で、彼らの感情や思考を示すシークエンス(主人公が彼女に「罠」を仕掛けるシーンなど)。
目の不自由な主人公の視界を表すピンボケのシークエンス。
家、カギ、お金、写真、本、詩、音楽、食事、そして手紙や新聞など小道具の使い方も無駄がなく、効果的。

主人公はウルグアイ出身の78歳の独居老人エルネスト。
彼はブラジル南部の地方都市(つまりウルグアイにより近い)ポルトアレグレに住んでいる。
サンパウロに住む息子は、父親を呼び寄せたいと思っている。

彼はふとしたきっかけで23歳の若い娘ビアと出会う。彼女は住む家も定まらないほど困窮し、しかも暴力的な元恋人に付きまとわれていた。
主人公にある日、故郷ウルグアイから手紙が届く。それは夫を失った、かつて実らなかった恋の相手からの手紙だった。ところがエルネストは視力を失いつつあり、その手紙を読むことすら出来ない。
手紙の代読、そして代筆からエルネストとビアの交流が始まる。

エルネストも、ビアも孤独だ。
また、隣に住む友人ハビエルも、そして手紙の相手も。
だが、彼らは孤独を必要以上に訴えたり、嘆いたりはしない。
登場人物たちは、みな優しい。
その優しさに打たれる。
少し噛み合わないところはあるものの、お互いがお互いのことを心配して、優しさを差し出しあうのがほんとうに素敵だ。

脚本、演出が高レベルで、そして人生の深淵に触れるメッセージ。
実に映画らしい映画。
傑作である。
ShinTakeuchi

ShinTakeuchi