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エルヴィスのAbeCinemaTVのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.3
すげえ楽しかった。疲れたけどwww

トムハンクスはトイストーリーのウッディでもあるわけですが、非常に良心的なキャラクターをこれまで演じてきた彼を語り手でありつつ、まさに悪魔的なキャラを演じさせることでミスリードでもあり、胸糞なキャラを見やすくしているというバランスが素晴らしいですね。

劇中だと出てくる奥さんがまだ存命(14歳くらいに出会ってる)らしく、本作の制作にも入っているようです。彼女がすごく良い人として描かれていたのはそこが大きいだろうね。
劇中でうまくテンポ良く表現されていたのは、とにかく辛かった黒人たちが神様に真摯に救いを求めていた時に歌っていたソウル、ゴスペルとただただ愚痴を音楽に乗せたブルース(Blue=
悲しい)に二極化していった黒人音楽の両極を聴いて育って彼の深部にはそれがあるということ。かつそれらは白人は一切聞くものではなかった(Jazzはちょっと白人も当時聴いていた)からこそ、エルヴィスの音楽性を独特なものにしていったわけですね。
その二極化は公民権運動の時にひたすら平和的手法にこだわったマーティンルーサーキングと暴力も非常時には用いるべきとしたマルコムX(しかしお互いのリスペクトがある)の黒人社会の二重の信仰に重なるものがあるね。黒人と白人の架け橋となると同時に黒人社会をまとめる力もエルヴィスにあったんだろうなと思う。
そして何よりバズラーマンの意外と抑制の効いた演出が素晴らしい。バズラーマンというとムーラン・ルージュも華麗なるギャツビーもとにかくごちゃごちゃしている間に物事がすごく悲しい方向に進んでいるという印象で、本作もそうと言えばそうなんだけど、混乱することがなく、びっくりするくらいよくできたエルヴィスの人生の要約になっている。入試の要約問題だったら100点満点。+αで点数上げます。エルヴィスのWikipediaはそのまんまこの映画流せばいいレベル。
60年代からアメリカは保守がマンネリ化してた時代で、60年代前半までは、若者が抑圧されていた。その間にすっかりロックはイギリスのものになってしまい、そこに影響を受けたアメリカの若者たちが、ラブアンドピースを訴えるようになっていく逆輸入みたいになっていくわけだけど、元を辿るとエルヴィスがいてさらに、黒人音楽があるということを思い出させてくれる一作でしたね。
その起源を蔑ろにしたのがバックトゥザフューチャー。クライマックスで主人公マーティがチャックベリー(黒人ロッカー)から音楽のルーツを奪ってしまうのは80年代再度アメリカが保守の時代に戻っていくのを思うと印象的なシーン。

その点、本作はエルヴィスや音楽史にものすごくリスペクトが払われた一作ではないでしょうか。
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