社会のダストダス

エルヴィスの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.0
予告編を何度となく目にする機会はあったものの、2時間40分もあったし世代でないこともありそれほど惹かれるものが無くすぐには観に行かなかった。でも多少重い腰を上げて観に行った甲斐があった、これってエルヴィスの曲だったのかというものも結構知ることが出来たし、2時間40分の鑑賞に堪えうる充実したストーリーだった。

監督はバズ・ラーマン、気になってた作品はあるものの本作が初鑑賞。事前に皆様のレビューを拝見していた限り、ハデハデの実の能力者だと聞いていたが、冒頭のワーナー・ブラザーズのロゴからエンドロールまでずっと画面がデコレーションされていた。好みは分かれそうだけど長尺の本作のテンポ感には一役買っていたように思う。

キング・オブ・ロックンロールを演じるのはオースティン・バトラー。『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・・ハリウッド』で股間をワンコに尺八され自分のナイフでブラピに刺されるという最高にロックな死に方をした男だ。作中でシャロン・テートの事件にも少し触れていたが、まさか同時代の伝説の男を演じることになるなんて本人もびっくりじゃないだろうか。最初は写真で見たことあるエルヴィスとそこまで似ているとは思わなかったが、パフォーマンスシーンは圧巻だったし、経年を重ねていくにつれ本物に近付いていくように感じた。

いい人役のイメージの強いトム・ハンクスが寄生虫のような悪徳プロデューサー。嫌われ役に気合が入っているのかなんだか楽しそうに見えた。本作において国際的ネームバリューのある配役ってこの人くらいだった気がする。彼の回想のような形式でストーリーは進むので、ヒール役だけど視点人物のような扱い。バットマン作品におけるジョーカーのような立ち位置に似ている。キャラ造形にものすごい既視感を感じていたが、ブロック・レスナーのマネージャーのポール・ヘイマンにそっくり。

シャマラン作品の『ヴィジット』に出てきたオリビア・デヨングもエルヴィスの妻役での登場。初登場シーンは黒髪で全然印象違ったので、出演は知っていたもののすぐに気づかなかった。いやぁ、おおきくなられましたなぁ(凝視)

エルヴィスという一人の男の人生を彼の視点で追っていくストーリーなのかと思ったら、ショービジネスの絢爛さとアメリカの暗部の摩擦の中を生きた人間の葛藤を、彼の近くで歩んだ人たちの視点で観ているような印象だった。ライブに立つ前、スクリーンに乗る前の姿、情報手段が新聞とモノクロのブラウン管テレビだった時代にどれだけの人々が本物のエルヴィスを見るために熱狂したかが想像できる。

有色人種や文化への差別が露骨だった時代に、黒人音楽を取り入れた白人のエルヴィスが大衆に受け入れられていくことに保守派のおっさんたちは危機感を覚え、パフォーマンスに注文を付けたり、兵役に就かせたりとコントロールできる存在であることをアピールしたすぎるのはかなり滑稽だった。

エルヴィスに対してラスベガス、もみあげ長げぇ、監獄ロックの人というイメージしかもっていない状態での鑑賞だったため、晩年のラスベガスの街がエルヴィスにとっての監獄だったというエピソードは意外かつ衝撃的で見ていて切なくなる

誰がエルヴィスを殺したのかで始まる映画。少なくともトム・ハンクスが演じていた大佐というキャラクターは本当にエルヴィスのことを愛していたんだなと思ったし、エルヴィスの晩年の行動や心情も推測はあるのだろうけど、一つの答えを用意した結末なのが良かった。伝記モノ鬱展開となったままモヤモヤと終りがちだが、最後まで見た目は派手なまま突っ切ってくれたのは潔い。

最後のライブの実際の映像との交差した演出は、エルヴィスのことを全然知らなかったのにこみ上げてくるものがあった。貴重なヒール役のトム・ハンクス、美しく成長したオリビア・デヨングちゃん、そして股間かじられ男から大出世したオースティン・バトラーの演技も良くて満足。