社会のダストダス

プリシラの社会のダストダスのレビュー・感想・評価

プリシラ(2023年製作の映画)
4.6
ジェイコブ・エロルディがエロいでい

何気に映画館で観るのは初めてなソフィア・コッポラ最新作。エルヴィス・プレスリーと同じ時代を生きていない私だが、去年にバズ・ラーマンの『エルヴィス』を観ているのである程度の予習は出来ていると考える。

エルヴィス・プレスリーの元奥さん、プリシラ・プレスリーを描いた作品。

主役はプリシラだけど、思った以上にエルヴィスを描いた伝記映画でもある、と言うよりプリシラとエルヴィス以外の人間はほぼ空気。プリシラ・プレスリーの本が原作になっていてご本人もプロデューサー参加されている。もとの本の内容は知らないけど、本作から察するにほとんどエルヴィスの暴露本みたいな内容なのだろうか。

何といってもまずは、ケイリー・スピーニーの演じるプリシラの魅力…と言うより魔力。ソフィア・コッポラがこれまでに培ったメイク・ザ・女子力をオールインしたようなキャラクター造形。『パシフィック・リム:アップライジング』の生意気なガキンチョと本当に同じ人なの!?というのが軽く衝撃。シーンごとに変わっている衣装もだけど、14歳から29歳までの経年描写の細かさと、年単位の微妙な演じ分けがしゅごい!

『ソルトバーン』でもバリー・コーガンのキモさをある程度軽減するエロさを放っていたジェイコブ・エロルディ。単純にエルヴィスに似ているかどうかでいえば、微妙なラインだけど、本作でもオースティン・バトラーとは違った独自のエロヴィス像を作ることに成功していると思う。この人のあだ名はエロさんで確定した。

驚いたのはプリシラを演じたケイリー・スピーニーとエルヴィスを演じたジェイコブ・エロルディが、二人とも1997年生まれの同い年ということ。出会いのシーンとかプリシラは14歳でエルヴィスが10歳年上なので、この犯罪臭をよく表現できているなと。同い年に見えないこの絵面は完全に逮捕案件だった。

本作のエルヴィスは完全にアナ雪のアイツみたいな描かれ方だけど、アイツのモデルはもみあげ似てるし、エルヴィスなんじゃないかという気がしてきた。たぶん脚本家はプリシラの本を読んでいる。ただしエルヴィスの知られざる陰の一面だけじゃなく、その後には陽の部分も出てきたりするので始末におけないタイプ、めんどくさい男。

映画が始まってからはしばらくはソフィア・コッポラ作品にしては意外と万人受けしそうな感じだなと思ったけど、プリシラがエルヴィスと出会ってから、同居、結婚、出産という過程をたどっていくと、何かが引き算されていき明らかに画面を漂う温度が低下していく。『ロスト・イン・トランスレーション』とか『Somewhere』にあったような孤独感や閉塞感が徐々に積み重なっていく。

後半に行くほど魔法が切れてしまったように淡白な展開になっていくのは、たぶん狙い通りの描き方なのかな。何故あそこが終わってしまうのかとも思わなくないけど、原作の回想録の題名が“私のエルヴィス”なのを知り納得した。

終わってみればいつものソフィア・コッポラ作品だったけど、目で見て楽しい画づくりは流石です。ケイリー・スピーニーとエロさんは今後も注目します。