社会のダストダス

瀑布の社会のダストダスのレビュー・感想・評価

瀑布(2021年製作の映画)
5.0
瀑布/The Falls … 瀑布(ばくふ)とは滝のこと、原題では“プブ”と読むらしい。

コロナ禍が舞台設定のNetflix産台湾映画。2021年配信であることを考えると、かなり早業な製作スピード。最初に観てから結構経つけど、なかなか言語化難しそうで書けなかった。この映画大好きなんだけど、Filmarksのスコアはそんなに高く無い、と言うよりそもそも観ている人も少ないので残念。

タイトルだけでどんな映画か察するのは難しいでしょう、コロナ禍の息抜きに綺麗な空気を吸いに滝を見にドライブしに行く映画ではありません、そんなことをしたら自粛警察が立ち上がってしまいますからね。

2020年3月、新型コロナによるパンデミックが流行したころの台北、自宅で自主隔離を強いられる母ピンウェン(アリッサ・チア)と娘シャオジン(ワン・ジンちゃん)、息苦しい生活の中で大きな変化にさらされ、親子関係は試練に直面する。

前半の掴みが凄く良かった。キャリアウーマンでシングルマザーのピンウェン、大学受験が控える娘シャオジンの日常のやり取りはややピリピリしている。シャオジンのクラスでコロナ陽性者が出たことで、シャオジンが濃厚接触者になり自宅に待機することになった母娘。思春期の娘に手を焼く母親の憂鬱と、母親の抑圧的な態度への反発心が隔離生活によって浮き彫りになる …的な話にはならなかった、全然違った。

部屋に閉じこもったまま呼び掛けても出てこない娘、ドアには「距離を置いて」の張り紙がされ、食事の時間もずらし直接の会話はほぼ無い状況が1週間以上続く。コロナの流行が始まったときは、多くの家庭で見られたことかもしれない。社会との接触を長時間断たれたことにより、ピンウェンの本人も自覚していなかった変化が表面化する。

導入がまるでサスペンスのようで、改修工事のためにブルーシートで覆われた家に差し込む光は青暗く、良くないことが次々と起こりそうな漠然とした不安感を煽る。仕事、病気、信用、金銭、さまざまな落下が始まる展開はまさに滝のよう。

あんまりどの部分がこうだったと書くとネタバレになりそうなので難しいけど、メジャーな作品で端的に例えるならば、主演のアリッサ・チアは『ファーザー』のアンソニー・ホプキンスとオリヴィア・コールマンの役を同時にやったような感じ。視点が変わったときこの人の行動の解釈も大きく変わる、語り手として信用できないと分かった後の後半の展開が凄く良かった。

そして本作は、ワン・ジンちゃんの可愛さと演技力の神髄が詰まっている。Netflix作品に出ることも多いから、もう少し日本でも知名度が上がっても良いと思うんだが。序盤の違和感の正体が分かった後からは、ワン・ジンちゃんが健気すぎて、今すぐ日本から保護しに行きたかった。

以下、取りあえず本作でのワン・ジンちゃんの最高なポイントを列挙しておく。


お母さんに遅刻すると急かされたあと、部屋から出てきたワン・ジンちゃんのファーストカットのしかめっ面の可愛さに開幕から死んだ。

マスクで顔半分を覆っていても可愛さがだだ漏れのワン・ジンちゃん。パッツン前髪とマスクラインの隙間3センチのゾーンから繰り出される愛らしい眼差しにハートを貫かれる。

お母さんが大変な状況になるが、新しい家庭を持つ父にはなかなか相談できないし、経済面での問題も襲い掛かる。華奢な双肩にかかる重圧に耐えながらも気丈に振舞うワン・ジンちゃん。こんなに切ない笑顔があろうか、いや無い。

家の外の衛兵に監視されていると怯えるお母さんのために、その“衛兵”に大声で叫び、さらにはドタドタと行進して立ち去るモノマネをするワン・ジンちゃん。格好良い可愛い優しい好き!

お母さんと職場の店長さんの甘いやり取りを熱演再現するワン・ジンちゃんの尊死レベルの可愛さに、ノーベル平和賞を挙げたい。むしろ、あげろ。


以上の加点ポイントを踏まえスコアは満点とします。ワン・ジンちゃんを褒め称えるレビューになっているが、多少の誇張は抜きにしてもその存在感は素晴らしい。今のところ観ている作品はほぼ全部良作なので、今後も楽しみでならない。

序盤はこのままサイコ・スリラーになってしまうんじゃないかという緊張感を漂わせる。厳しい状況の中ゆっくりと歩きだす親子、コロナ禍で世間では他者の問題に無関心に見えても、見ている人は見ている。7割くらい上手くいかなくても、世の中捨てたものじゃないと思える感じが染みる。全編を彩るサントラもとてもいい味を出している。

ラストのほうの展開は、いささか唐突な感じもするけど、もしかして全てお母さんの想像の中での出来事かもと思ったりした。どちらにしてもワン・ジンちゃんが元気ならオールオッケー◎