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tick, tick...BOOM!:チック、チック…ブーン!のdojiのネタバレレビュー・内容・結末

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このレビューはネタバレを含みます

tick tickと時を刻んでいるのは大舞台に向けた締切への焦りであり、HIVで亡くなっていく友人たちの生命の鼓動でもあり、そしてそれはラストに主人公が成功をみることが亡くなったことが明かされることで、彼の人生の秒針であり、心臓の鼓動でもあったことがわかる。一見ポジティブで真っ直ぐな夢を追うことについての映画のように見えるけれど、その夢を追うということのシンプルさゆえの苦しみというのを真っ直ぐに描いていて、そこに一番胸を打たれたかもしれない。

「RENT」での大成功を収める前の作品を舞台とすることで、サクセスストーリーのように描いていないことにも、誠実さとリアルを感じた。晴れの舞台がうまくいったとしても、その次の、またその次の、そしてそのまた次の作品をつくり手はつくらなくてはならない。その孤独と絶望が、当時は不治の病とされていたHIVにかかり亡くなっていく友人たちの人生の儚さと重ねられ、焦りと孤独が加速していく。

ヒロインの女性に対しても、ひょっとすると就職して主人公から離れる展開に対して味気なく感じるかもしれないけれど、そういうものなのだと本当に思う。次のその次の、そのまた次をつくることに、多くの人は伴走することはできない。そう思うと、主人公の孤独がぐっとこちら側に押し寄せてくる。ジョナサン・ラーソンのことをそんなに知らなかったので、彼が若くして亡くなったと静かに語るラストにはこたえるものがあった。

ロック・ミュージカルというものにはちからがあると思う。ロックミュージックの直情性がものがたりとともに歌い上げられることでしか生まれない感情というものがある。そのすべてを体現したジョナサン・ローソンの力を、監督のリン=マニュエル・ミランダは映画として完璧に仕上げていると思う。
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