ナガエ

さんかく窓の外側は夜のナガエのレビュー・感想・評価

さんかく窓の外側は夜(2021年製作の映画)
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僕は、霊的なものは信じない。けど、普通の人には見えないものが見える、という主張はしんじる。それが、幽霊だとは思わないけど。

そもそもたぶん僕らは、一人ひとり全然違う世界の見え方をしている。みんな、まったく同じものを見ていると思い込んでいる方がおかしい。たとえば、脳科学の世界には「クオリア」と呼ばれるものがある。きちんとした説明はできないが、要するに、例えば我々が赤いものを見た時に、脳が感じる「赤っぽい」という感覚のことだ。そして、このクオリアのことを考えると、僕たちは同じ赤色だと思っていても違う色を見ている可能性は十分にある。私の「赤」とあなたの「赤」が同じ色である保証はどこにもない(それを確かめる方法もないのだけど)。

また、人間の目というのは設計上の欠陥があって、そもそも見えていない領域がある。それは「盲点」と呼ばれている。脳と目を繋ぐ視神経が、眼球に直接くっついているために、その視神経と眼球の接点では光を感じられないのだ。「盲点」がどこにあるのか知るための手軽な実験は検索すれば出てくるので探してほしいが、つまり僕たちは、視界のある領域は本来的に見えていないはずなのだ。

しかし僕らは普段、「ここが見えない」などと感じることはない。それは、目の機能としては見えていない領域を、脳が勝手に映像を埋め込んで補完しているからだという。つまりこれは、「人類は全員、見えないはずのものを見ている」と言っていいだろう。また、「見えないはずの領域を補完する脳の機能」に何かバグがあるとすれば、本来補完されるべきではない映像が埋め込まれてしまうようなミスだって起こってもおかしくはない。

こんな風に考えると、他の人には見えない何かが見える人がいる、ということも、特別不思議ではないと感じるんじゃないだろうか。

しかし、それを「死者の霊」や「超常的な現象」と結びつける思考は、あまり好きではない。確かに、昔何かの本で読んだけど、「思考」というのは基本的に脳内の神経回路のプロセスそのものであり、単体で取り出せるようなものではないと考えられているけれど、実は「思考」も、物質のような感じで実体を持つものなんじゃないか、と考えて研究をしている人もいるらしい。科学というのは、それまでありえないと考えられていたことを覆してきた歴史だし、だとすれば、「思考」が実体を持つ存在だと判明する未来がやってくるかもしれない。もしそうなら、「死者の思考」が実体としてどこかに残っていて、その受信装置を持つ人がその思考を読み取ることができる、なんていう説明も不可能ではないだろう。

とはいえ、自分で書いていても、やっぱりこの説明は現状では無理があるよなぁ、と思う。

「現在の科学では説明できない現象」というのはいくらでもある。一時期、「飛行機が何故飛ぶのかまだ解明されていない」というデマが本当のことであるかのように広まっていたけど、でもそういうことは実際は山程ある。この前テレビで、「猫がマタタビに反応する理由が初めて解明された」というニュースを見かけた。実は世の中は、科学では説明できていないことだらけなのだ。

だから、オカルト的に扱われている事柄も、いずれなんらかの形で科学の領域で解決を見る可能性はありうると思う。

UFOやUMAについても同じことを感じるが、人為的なものかどうか判断できないものの中には、本当に謎めいた説明不可能なものもあると思う(UFOに関しては、アメリカの国防総省が3件のUFO映像を公開して話題になった)。しかしそれらを「地球外生命体」などと結びつけるのは早計だろう。「今の科学で解明できないこと」が「超知性体」や「霊的な世界」と直接イコールで結ばれてしまうことに疑問を感じる。

かつて「パルサー」という天体が発見された時、最初「緑の小人1号」という名前がつけられた。何故なら、観測チームが捉えたのは、非常に規則正しい電子パルスで、これほど規則的な電子パルスが天体から発せられているなどとは誰も想像ができず、これは宇宙人に違いない、と考えられたからだ。しかし実際は、今まで未発見の天体だった。おそらく今後も、人間の好奇心が積み重なっていくことで、それまで謎だったことに説明がつくようになるだろう。

もし本当に、他の人には見えないものが見えている人がいるのであれば、早くその正体を知りたいものだと思う。

内容に入ろうと思います。
書店で働いている三角(みかど)は、子供の頃から幽霊のようななんだかわからないものが見える体質だった。そのことが嫌でたまらなかったが、ある日書店にやってきた男(冷川)が勝手に、三角の身体を通して霊を見て除霊を行った。助手にならないかという誘いを一度は断るが、僕と一緒にいれば見えても怖くなくなる、と言われて契約を交わすことにする。冷川は、一般の人からの除霊の依頼をこなしつつ、刑事の半澤から度々やってくる厄介な依頼も請け負っていた。
半澤の依頼を進めていくことで、三角は「非浦英莉可に騙された」という謎の声を聞くことになる。冷川も何度か耳にした名前だといい、おそらく罪なき人を操って厄介なことをしているのだろう、と言う。やがて彼らは、非浦と邂逅することになるが…。
というような話です。

完全に、平手友梨奈が出ているから、というだけの理由で観に行きました。原作は、確か2巻ぐらいまで読んだことがあって、だからなんとなくの設定は知っている、ぐらいの感じで見ました。

面白かったかというと、そうでもなかったかなぁ、というのが正直な感想です。たぶんこれにはいくつか理由があるだろうな、と。

おそらく一番の要因は、「彼らがしていることの大変さが、映像的に伝わりにくい」ということだと思います。三角、冷川、非浦の三人は、霊的な見えない存在とそれぞれの形で闘っているわけなんだけど、その闘いが、どれぐらいしんどいものなのか分かりにくいんです。例えば、「東京タワーを命綱なしで素手で登る」みたいな映像なら、どれぐらい大変か、怖いか、危険かということは、映像的に一発で伝わります。でも、「除霊する」「霊を体内に入れる」「穢れを解き放つ」などの行為は、どれぐらいしんどい行為なのかよくわからないんですよね。だから、主人公たちの真剣さ、シリアスさ、しんどさみたいなものが、うまく伝わらない。感覚的に捉えるべきものを頭で一度考えて変換しないと伝わりにくい、という点が、この物語を映像化する上で一番むずかしいポイントだろうし、その問題をクリアできていないように僕には感じられました。

あと、原作が何巻まであるのかわからないけど、そこそこシリーズが続いていたと思います。で、そのストーリーを結構詰め込んだ感じがします。しかも、映画本編は2時間切ってると思うので、一般的な映画と比べてもちょっと短いぐらいじゃないかと思います。その時間にしては、物語的に詰め込んでいるものがちょっと多すぎるような感じがしてしまいました。観客に理解してもらわないといけない設定(三角は霊が見えるとか、非浦は呪いをかけられる、など)もそれなりにある中で、物語が展開していくにつれて結構大きな話になっていくので、まとめきれていない印象でした。2時間半ぐらいの映画にするか、物語をもう少しコンパクトにするかしないと、中途半端な感じがします。

とはいえ僕的にはそれなりに満足で、それはやっぱり、平手友梨奈が良いと感じたからです。登場シーンはそこまで多くないんですけど、やっぱり、温度を感じられないような、どことなく感情が欠落しているような役をやらせると、表情なども含めて非常に合うなぁ、という印象です。欅坂46時代からそうでしたけど、無表情が非常に雄弁というか、何も語らずとも何か勝手に受け取ってしまうような、そういう表情の強さみたいなのがやっぱりあって、やっぱりいいなぁ、と思いました。

あと、狙っていったわけではないんですけど、自分の映画を見るスケジュール的にちょうど舞台挨拶をライブビューイングする日に観ました。で、これがかなり良かった。志尊淳がサプライズで手紙を書いてきて、それを朗読してたんですけど、志尊淳、非常に良いですね。

手紙の文面がまず、ちゃんと自分で考えたんだろうということが伝わるものでした。それは別に、「拙い表現だった(から自分で考えたと思った)」みたいなことでは全然ないです。なんというのか、どういう表現であれば相手にちゃんと伝わるのかということを考えているし、手紙にありがちな、どっかから借りてきたような定型文もなくて、非常に良い文面だったと思います。

一番良かったのは、平手友梨奈に向けての手紙の文面で、「今から色々言いますけど、その間は絶対に首を横に振らないでください」というもの。これは見事だったと思います。おそらくアドリブではなく、あらかじめ考えていたことだったと思いますけど、実際に平手友梨奈は、志尊淳が平手について言及し始めた時から「わたしは全然そんな風に言ってもらえるような存在じゃない」と示すように首を横に振っていました。平手友梨奈のそういう性格をきちんと理解し、その上で、「自分の発言はすべて言葉通りに受け取ってくれていい」という内容を伝えるために、「絶対に首を横に振らないでください」という言葉をセレクトしたところが、二人の関係性が伝わる気がしてよかったです。

最近、この映画の番宣のために、岡田将生・志尊淳・平手友梨奈がいろんな番組に出ていて、そこで、三人の関係性が非常に良いというエピソードが色々語られるんですけど、僕としてはとにかく、前回出演した映画『響』で出会った北川景子のように、また信頼できる人と出会えて良かったね、と感じました。

しかし、『響』での関係性あってのことだとは思うけど、北川景子の使い方が贅沢だ(笑)
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