MotelCalifornia

マルジェラが語る“マルタン・マルジェラ”のMotelCaliforniaのレビュー・感想・評価

4.2
「私はファションデザイナーであり、創るのが本分だ。アシスタントに指示を出すだけのディレクターじゃない。」
「コンセプトが大事なんだ。」
「ファッションでできることはすべてやれたか? いいや。」
これまで一切メディアに出てこなかった男の肉声。ただし、その顔はこの映画でも映されることはない。

これを観るまでは、モデルの顔を覆うショーとか脱構築的な服といった彼の一連の創作物を見て、皮肉とかパンキッシュな反骨心の表れなんだろうと、僕は捉えていた。
ところが、初めて作品についての彼の言葉を聞いて、アンチテーゼとか逆張りのポーズからそうしているのではなく、服やショーというものについて誰よりも真摯に向き合った結果、みんなの固定観念を自体を揺さぶるような、本質的な問いを投げかけるようなところに行き着いていたのだとわかった。何かに対するアンチなのではなく、とてもストレートな表現行為だったわけだ。

彼のクリエイションからは、なにか子どもの工作の延長のような、生々しい身体性とか、創る喜びみたいなものを受け取っていたのだけど、この映画で紹介された、少年時代の創作ノートや、初めて彼が作ったというバービー人形に着せた服に、そのピュアさや初期衝動の源泉を見たような気がした。
顔を出さない彼が、「作業する手」と「言葉」でこの映画に出演しているということが、とても象徴的だと思った。

Netflixのドラマシリーズ『ホルストン』を先に見ていたので、ブランドの運営のために他所から資本を入れることによる苦悩などがよく伝わってきて、彼のような人なら、そりゃ引退したくなるよね…と胸を痛めた。

自分の創作にも刺激を受けたし、ドキュメンタリー映画としても、すごく面白かった。観てよかった。
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