さわだにわか

狩りの時間のさわだにわかのレビュー・感想・評価

狩りの時間(2020年製作の映画)
4.5
一見なんのことない凡庸なSFクライム・サスペンスっぽいのですがある種の二重構造になっているのが面白いところで、背景としては韓国の二度の通貨危機があり、とくに1997年の通貨危機とIMFの介入が世界観の基調になってます。その結果として韓国は緊縮財政路線を取らざるを得ず労働者や個人商店なんかはダメージを負ったので、イメージとしてはそのうちに再び同じような通貨危機がやってきて、で今度は耐えられずに国がデフォルトするだろうと、そういうのが劇中の近未来韓国。

なのでこの映画はターミネーターばりに不死身の殺し屋に追われ続け怯え続ける若者たちの必死の逃亡と抵抗を描くわけですが、同時にそれは通貨危機のトラウマに怯えつつ前進しようとする韓国の自画像でもあり、もし今度通過危機がやってきたら俺たちはもう黙って政府の方針なんかに従わねぇぞと、緊縮財政の痛みを真っ先に受ける若者たちが反撃の狼煙を上げる、そういうアジテーションが核にある(あのラストはたぶんそういう意味です)

少しも夢がなく魅力もない近未来像は通貨危機の再来としてしか未来を描けない低所得層の絶望を反映したものかもしれず、ウォンが使えず米ドルが使われる設定には独立国家としての韓国が維持できずIMFとアメリカの傀儡になることの恐れが込められているのかもしれず、冷酷無比な不死身の殺し屋は緊縮という概念をキャラクター化したものかもしれず…とまぁそれはさすがに穿った見方が過ぎるとしても、韓国という国の抱える不安と怒りをディストピアSFのジャンルに落とし込んだ、非常にユニークで面白い社会派映画だったと思います。
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