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MINAMATAーミナマターのt0moriのネタバレレビュー・内容・結末

MINAMATAーミナマター(2020年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

作品の意義は高いと思うし、この企画を通した事は評価したい。社会派的なメッセージ映画を期待していたのだが、少々残念な仕上がりだった。

ロケ地が日本と違うとかは、さほど気にならなかった。まあ、水俣に場面が移った最初の空撮カットからして、こんな海岸線に肥薩線は走ってないよな、とか思いつつのスタートだったけど、あらかじめ情報としては知っていたせいもあり、次第に忘れた。

被害者側の描写も丁寧で、なるべくリアルに再現したいという意思は感じた。真田広之も良かったし、障碍の出た患者さんたちも心を打つのに十分な工夫が見られた。特にラストの「アキコの写真」の再現はお見事だった。
そしてジョニー・デップが存外に良く、いつもの彼独特のアクの強さのようなものは影を潜め、ユージン・スミスが憑依したかのような自然な振る舞いに圧倒された。やはり上手いな、と。

それでもこの映画に致命的な問題があると感じるのは、チッソ社側の描写だ。露悪的に、もっと言えば戯画的に描かれすぎていると思う。この公害の当事者であり、諸悪の根源、本作においては悪役には違いないのだけど、賄賂を渡そうとしたりスミスの撮影を潰そうと火をつけたりと、事実を捻じ曲げてまで犯罪者に仕立て上げようというとする脚色は、こう言った実在の人物と、実際に起きた出来事を題材にしたドラマを通して現実の公害へと話を繋げるならば、事実を曇らせる可能性がある。一方的に被害者側からの視点でしか語らないのは、アンフェアだし物語としても現実味が損なわれてしまう。
脚色やフィクションが悪いということではないのだけど、バランスが悪すぎるのだ。國村隼がまた悪役顔なのもあって、どうにも最初からの印象付けが強すぎて、その辺りはリアリティを感じられなかった。

加えて致命的なのは、終盤でスミスへの集団暴行に加担した、チッソ側に雇われたらしき青年が、放火も自分の犯行であり、ネガを回収してあったとスミスへと届けたあたりの描写だ。おそらくは地元のチッソによる雇用の恩恵を受けている家庭の人物という設定だと思われるが、そのバックボーンも彼自身の葛藤もネガを返すに至った翻意も全く描かれないのは、片手落ちだし作品内での自己矛盾を起こしている。スミスに賄賂を渡そうとした社長が漏らす、「何百万分の一」のひとりとしての描写となっていると感じた。

台詞として悪役にその言葉を吐かせるのなら、映画としての正義は「何百万分の一」に相当する人々に寄り添うべき、と謳って欲しかった。

もう少しバランス良く描かれ、作品内での主張が一貫していたなら、もっともっとクレジット前の「現代でもこのような公害は続いている」というメッセージに説得力を持たせる事が出来、観客にもその責の一端を感じさせる事が出来ただろうが、現状の本作では、カッコつけでエピローグにそんな主張を置いたとしか見えなかった。なんとも残念。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20211005/k10013290071000.html
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