Inagaquilala

裏アカのInagaquilalaのレビュー・感想・評価

裏アカ(2020年製作の映画)
3.6
「火口のふたり」(2019年)を観て以来、気になっている女優の1人、瀧内公美の主演作品。「火口のふたり」では、結婚を控えて昔の恋人と会い、ひと夜の情事に身を焦がすという難役を、ニュアンス濃く演じていたが、この作品でも、年齢設定は少し上だが、SNSの裏カウントで、隠された自分の欲望を充たそうとする複雑な内面を持った女性をリアルに演じている。ストーリーとしては、先が見える、それほどひねりのあるものではないのだが、瀧内の存在感が全編を支配しており、自分も最後まで引っ張っていかれた。

瀧内自身も、作品の公開にあたって、「撮影前から、監督と何度も何度もミーティングを重ね、話し合い、納得がいくまで作品づくりを行なってきた、愛おしい作品です」と語っているが、まさにその通りの「瀧内公美の作品」だった。ちなみに、監督の加藤卓哉自身も「現場では、瀧内さんが文字通り渾身の力で演技をしてくれました。準備段階から他の仕事をすべて断って、主人公になり切ろうと一緒にもがいてくれました」と、これが瀧内ありきの作品だったことを語っている。

とはいえ、瀧内がのめり込む相手の描写が、ほとんどセリフの上だけのもので、そのバックストーリーがほとんど心に響いてこず、主人公のひとり相撲という印象もなくもない。しかも、ラストもやや中途半端な展開で、せっかくのそれまでの瀧内の演技が残念なものになってしまっていた。やはり葛藤の対象となる人物との決着は、正面からの対決として描くべきだろう。主人公の橋の上での行動は、結末としてはかなり陳腐な気がした。
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