感動作。その宣伝文句を鵜呑みにしてはなるまい。切実さ、容赦のなさは、今年のオスカー作品『ノマドランド』に何倍も、何十倍も勝る。
誰の身にも起こりうる認知症。古いCDが音飛びを繰り返すように、記憶は幾度もループを重ねながら、日々確実にすり減ってゆく……なんとやるせないことか。
混乱を来たす主人公アンソニーの視点と、父の病状の進行に戸惑う娘アンの視点をごちゃまぜにしながらキャストと役がコロコロ変わって、現実と空想を交錯させてゆく脚本が、とにかく巧みすぎる。怖いのに、なんか凄すぎて笑ってしまうレベルで面白かった。
そして御年83歳にしてとんでもない熱演をぶちかました名優アンソニー・ホプキンス (役柄よりも2歳上…!!) はもちろん、介護疲れに苦悩する娘オリヴィア・コールマンも、女王の貫禄。カップを床に落として割るシーン、震えたァ。