○ 認知症と診断された父と、その娘の話。父アンソニーと娘アンの会話に没入していると、突然視点が変わり、真実が変わり、混乱。整合性を必死に取ろうとするけれど、追いつかない。何が真実だったのか判断がつかないまま、終わってしまった。
○ 混乱するということは、正しい反応なのかもしれない。認知症になった家族の面倒をみる側の気持ち、支援をする人の思いを描写する作品は多くあるけれど、認知症を発症した側からの視点は、映像にすると、こういうものなのだろうか…そんな気づきを得る。
○ この家族は、決して特別ではない。「介護が必要だけど、仕事をしなければいけない」「家で一緒に過ごしたいけど、もうできない」「世話をしている自分よりも、側にいない兄弟のことばかりを気にかける」こういったことは、ごく身近で起きていること。手放しで、良い映画だった！とは言えない。しかし、とても印象に残る作品。
○ アンソニー・ホプキンスは、レクター博士、オリヴィア・コールマンは女王様のインパクトが強い（そういえば、この作品でもアンだった）。見始めてからしばらくは過去作品にとらわれていたけれど、この作品での2人の演技は、本当に自然で、まるでずっとそんな家族だったように思えてくる。観る人を感傷的にさせないのも、計算のうちなのだろう。振り返るほどに、凄みを感じてしまう。
