アンソニー・ホプキンスの役柄はアンソニー。本人が本人の役を演じる。しかもその役が痴ほう症の老人とは。
羊たちの沈黙で、レクター博士と衝撃の出会いをした昭和生まれとして、その変貌に驚きを隠せませんでした。
しかし、その変わりようは、みすぼらしくなったという失望ではないのです。画面の前で不安になるような素晴らしい演技でした。
また、シナリオも見事です。
舞台はマンションの一室からほとんど変わらないのに、一瞬ごとに登場人物が入れ替わるため目が離せません。さながらミステリー作品を観ているようです。
それも、作品がアンソニーの頭の中を中心に回っているから。
時間も記憶も、目の前に誰がいるかさえあやふやな世界に、心がかき乱されます。
私の父がアンソニーとほぼ同い年。
もしかすると、いつかこの作品と同じような境遇になるかもしれません。
その時にはアンソニーの涙を思い出すかもしれません。
ライフイベントに刻み込まれる名作です。