このレビューはネタバレを含みます
物をなくしたり、大事なものをなくさないように隠したりする行動は認知症の患者にはよく見られる症状だけど、それが「腕時計」というアイテムだったこともキーポイントになっていたと思う。いつどこにいても時間が分かるように身につける腕時計は自分専用の時計ともいえるし、「腕時計をなくす＝時間が分からない」という状況は日付や時間の感覚を失っているアンソニーの状態を上手く表しているなと思った。
序盤は内容よりもアンソニー・ホプキンスの演技に魅入ってしまった。さすが主演男優賞を獲得しただけのことはある。そして主演男優賞といえば思い出すのが、この年のアカデミー賞授賞式のことだ。実は主演男優賞の大本命はアンソニー・ホプキンスではなく、前年に癌で亡くなったチャドウィック・ボーズマンだった。このときはコロナ禍だったこともあり、授賞式は小さな会場で出席者も限られた人のみで行われた。さらに発表順もいつもとは違っていた。通常なら作品賞の発表は一番最後なのだが、わざわざ作品賞の順番を先にして、一番最後に主演男優賞を発表するという異例の展開だった。それだけに周囲からはボーズマンの受賞への期待が高まった。故人のボーズマンがオスカーを獲れるのは今回が最後だからだ。視聴者からすればアカデミー賞のにくい演出に思えた。しかし蓋を開ければ、主演男優賞はアンソニー・ホプキンスが受賞することに。おそらくこのサプライズに自分を含め多くの人が驚いた。しかもホプキンスは式を欠席していて受賞後のスピーチもなかった。結局いまいち盛り上がらないまま授賞式は幕を閉じたのだった。
