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わたしは金正男を殺してないのfujisanのレビュー・感想・評価

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「日本では不幸にも新年から、地震による多くの人命被害と物質的損害をこうむったとの知らせに接した」

新年早々に発生した能登半島の大地震に対し、岸田首相を『閣下』と称する奇妙に丁寧な見舞いを送ってきた金正恩。真意が掴めない謎のメッセージのため、日本ではほとんど報じられませんでした。

2011年、父、金正日の死によって20代の若さで最高指導者の立場に立った際は実力が未知数であり、体制の維持すら危ぶまれた金正恩ですが、その後トランプ大統領との会談を実現させ、日本に対してもミサイルを発射して挑発を続けるなど、したたかで老獪な男でした。

本作は、2017年2月に金正恩の異母兄、金正男がマレーシアのクアラルンプール国際空港で暗殺された事件についてのドキュメンタリー。

犯行の一部始終が空港の監視カメラに映っていたことから世界中で報道され、日本でも大きく報道されたことを覚えています。

暗殺の実行犯は20代のベトナム人女性とインドネシア女性で、逃げる様子もなく逮捕されるという不可解さもあってマスコミが殺到、マレーシアには死刑制度があるため刑の早期執行も危ぶまれ、しばらくの間ニュースを賑わせていました。

本作では、暗殺事件の経緯と黒幕についての考察、二人の女性がいかにして犯行に及ぶことになったのか、そして逮捕後にどうなったのかについてが語られています。

犯行直後は毎日報道されていた事件でしたが、拘留が長引くにつれて報道されなくなったため、私自身その後どうなったかは知らなかったのですが、本作は起承転結が分かりやすくて見やすいドキュメンタリーになっていたと思います。



本作は拘留された女性の観点で描かれた映画でしたが、公衆の面前でシステマチックに暗殺を実行する北朝鮮の手口に改めて震撼する映画でもありました。

思い出すのは、2002年に当時の小泉純一郎首相が当時の安倍晋三官房副長官とともに、拉致被害者の交渉のために北朝鮮に乗り込んだ訪朝の裏側。

訪朝中に日本との通信が途絶えないように複数系統の通信手段を持ち込み、北朝鮮からの飲食の提供を受けないよう弁当も持参、訪問中のトイレの使用にも気を配った数時間、日帰りの弾丸日程による訪朝でした。

入国後の会話は全て盗聴されている前提。交渉前の控室で小泉首相(当時)がわざと、『金正日が謝罪しないならその場で席を立って帰国する』と聞こえるように語り、謝罪を引き出したというのは有名な話です。

そんな、国家を掛けて対峙しなければならない国に睨まれた一般人はどうしたらいいのか。闇の深さを改めて感じる作品でした。



ちょうど今、北朝鮮からの脱北を描いたドキュメンタリー「ビヨンド・ユートピア 脱北」が公開されていますが、こちらもなかなか凄い内容のようですね。

渡河、徒歩による脱出、中国を経由しての大回りでの韓国入り、金品を要求する脱北ブローカーについては、以前からも報じられていた内容なので、観るかどうかは迷っているのですが、評判もいいようなので、タイミングが合えば観たいと思っています。

個人的に小泉訪朝は映画化できるほどドラマチックな内容なので、是非ドキュメンタリー、映画化してほしいと思っているのですが、まだ現在進行系の問題ですから無理なんでしょうね。

ていうか、見舞い電報送ってくる気持ちがあるなら、まずは拉致被害者を解放しろよ、と強く思います。
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