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グッバイ、レーニン!のmarohideのレビュー・感想・評価

グッバイ、レーニン!(2003年製作の映画)
3.5
 一応コメディの括りに入れられる本作ではあるが、ドタバタした展開も明らかなギャグもほとんどなく、どこかしんみりとした作品だった。
 楽曲に「アメリ」のヤン・ティルセン。中には「ある午後の数え歌」などアメリでも使用された曲も使われていてファンには嬉しい。明るい曲調の楽曲も多かったアメリと異なり、この作品ではピアノを中心とした物寂しい音楽でまとめられている。

 ベルリンの壁が崩壊したことをひた隠しにする過程で描かれる、「そうはならなかった社会主義」とその哀愁。息子と母との間で育まれた理想の東ドイツという国は、過去にも未来にも存在しないのだ。
 東ドイツ国境開放を報じた偽ニュースからエンディングにかけての一連のシーンが素晴らしい。当時の実際の映像と、史実と全く逆の事を言うアナウンサーの対比。

 息子は最後まで、母が社会主義の敗北を知ったということを知らない。あるいは知っていても口にはしない。
 ノスタルジーという名のベールは人々の目を優しく曇らせ、どれほど醜悪なものにも甘美な響きを与える。東西冷戦や東ドイツ、社会主義に資本主義。それらのベールを剥がし内実を見ればまさしく醜悪そのものなのだろう。であればこそ、剥がれかけたベールをそっとかけ直すというのも一つの優しさなのだろうか。
 全ての嘘を白日の下に晒す事なく幕を閉じた物語にそのようなことを感じた。
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