ヨツ

逃げた女のヨツのレビュー・感想・評価

逃げた女(2019年製作の映画)
3.8
彼女は何から逃げたのか?
観客自身が埋めることのできる余白が、こんなにも心地よいかたちで残っているなんて。

ガミが旧知の友人と会話するシーンがメインで、特別なことは何も起こらない。しかも、ガミ自身のことは「5年間夫とつねに離れずいっしょにいたこと」しか語られない。なのに、ガミという女性に惹かれ、彼女が何を考え何を感じているか、想像せずにはいられない。終始漂う不穏な、というと言葉がきつすぎるし、不協和音というほど致命的でもないし、ただなにかしっくりこない感覚が、彼女のなにかがうまくいっていないのだ、と教えてくれる。80分弱というコンパクトな上映時間と、語られることの少なさと、抑揚のなさが、絶妙なバランスを保っており、私映画を観た!と思わせてくれる作品にひさしぶりに出会ったなあと思いました。

ホン・サンス監督の作品がとても好きというわけじゃないのですが、いつもキムミニが抗うことのできない魅力をたたえており、必ず見入ってしまいます。本当に、ミューズという言葉を実感するよ、キムミニを観ていると。
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