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逃げた女のenniのネタバレレビュー・内容・結末

逃げた女(2019年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

余韻からこの映画の良さがジワジワ来る。全方向からジワジワ来る。
主人公と他の女性たちの間のちょっとしたズレ。なんだかずっと上っ面というか。特に互いの核心を突くようなハッキリした会話はしないけれど、あの丁寧な優しい上っ面加減がよく語っている。

5年。たった5年、されど5年。
5年もあれば連絡や会いに行くこともできるのに、主人公は愛する人の意志を尊重して(自分の意志を放棄して?)片時も離れなかった。そしてオンニと慕うほどの女性たちに5年ぶりに会うと、オンニたちは主人公と違って自身の意志をもって人生において大きな選択をしている故、〈生き方〉においてより成熟しているという。(蛇足だけど野良猫ちゃんを外で餌付けするか否かの会話の様子も、当たり障りはないけどガッチガチな意志でしたな...。ある意味〈成熟〉を表現しているのかな。成熟したパートナーを選んでいる事実。)
そのギャップに気付いているのか否かまでは主人公の表情からは読めないけれど、彼女が毎度〈5年間一度も離れなかったその理由〉を説明する際の表情には、少しばかりのマウントや不安、自虐が伺える。相手はそれを読み取っているのかもしれない。あるオンニは3階に上げてくれないし、あるオンニは「あなたは働く必要はないものね」と言う。他愛のない話をしているようで、互いに核心をオブラートに包みすぎた会話をしている。
最後の恋仇との会話が秀逸。旦那の愚痴を言っているようで、とても主人公に刺さる言葉ばかり。愚痴は鋭い。その鋭さが不意にも主人公に突き刺さった感じがする。恋仇の素直に申し訳なさそうに謝る姿も、成熟した雰囲気がある。

時間は巻き戻せないということ。時間と共に同胞だと思っていた人々が成熟している現実。比べて、まるで時計の針が止まったように生活していた事実。
5年間の結婚生活から逃げた女なのか。時間から逃げた女なのか。本当にジワジワくる。

お利口に演技する猫ちゃん(かあいい)、ホームビデオのような撮影スタイル、チープな音楽、それぞれの住まいや職場の抜かりなくちゃんとしている感じも良かった。
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