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日本人の忘れもの フィリピンと中国の残留邦人のyoko45のレビュー・感想・評価

4.8
 中国残留孤児は両親が日本人であり、かつて国の政策で移住が進められたため、政府による家族捜しなどの支援が行われる一方、フィリピン残留日系人は日本人男性と現地女性の子で、戦後75年のいまも苦しむ人たちがいる、この二つの残留日本人を描くドキュメンタリー。
 問題を提起するために制作されているので強く偏った論調がないか慎重に観ていましたが、そんなことはなく、政府がどこまで取り組んでいて何が足りないのか、とても分かりやすいですし、この課題に正面から取り組んでいる方々の努力に頭が下がります。フィリピンに取り残された人たちの高齢化が進み、このままでは問題が消滅してしまう、もう時間がないという関係者の焦りもひしひしと伝わってきます。
 1945年8月の記録、海外に居住する者はできる限り現地に定着させるという国の方針に凍りつきます。おそろしいです。日本に帰れず現地に取り残された人たちは、反日感情が高まるなかを逃げ、日本人の血をひいていることを隠して暮らしてきたのです。
 終戦後、現地に残る人たちを救おうとしなかった、帰国させようと試みなかった、やっと帰国を果たせても自立させるべく支援をしなかった、これは「棄民」ではないのか、この問いかけに胸が痛くなりました。
 かつて希望をもって大陸へ渡るも、中国の人に子どもを託して死んでいった日本人がいます。フィリピンの資料館には「困ったときは日本国に頼ること、祖国はおまえたちを見捨てない」という日本人男性が現地で結婚した妻と子どもにあてた遺書があります。多くの人が祖国を信じていたことが想像できます。
 戦争を起こしたからこうなったのです。この忘れものを取りに帰る国の姿を信じたいです。
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