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君は永遠にそいつらより若いのkojikojiのレビュー・感想・評価

4.8
「君は永遠にそいつらより若い」
2021年 日本 監督:吉野竜平 原作:津村記久子
キャスト:佐久間由衣、奈緒

 映画によって呼び覚まされた感情や思いが、自分にとってかけがえのないものであったらそれはもう何もいうことはない。
 
 2022年。これまで私が観た映画は、この作品を入れて88本。その中でベストの作品です。 

 卒業を間近に控えた女子大生ホリガイ(佐久間由衣)は、児童福祉職への就職も決まり、後は卒論を書いて卒業するだけで、手持ちぶさたな日々を送っている。
 しかし彼女は漠然とした欠落感に不安と焦りを感じていた。そんな中、同じ大学に通う年下の女性イノギ(奈緒)さんと知り合った彼女は、自分とは対照的な相手との交流を通して、改めて自分自身とも向き合っていく。

 大学卒業を間近に控えた秋から冬。学生生活もあと数ヶ月で終わる。これからはただ毎日、仕事に追われる日々を過ごさなければならない。当たり前のように周りにいた友人達も日常生活から消えていく。
 誰もがそんな「不安」や「喪失感」みたいな気持ちの中にいて、独特の雰囲気があった季節。

 ホリガイの「不安」と「欠落感」にもがく姿が、全く共通点はないにもかかわらず、自分をダブらせていた。疑似体験というと少し違うが、観終わった後そういう感覚に襲われた。自分にとってはもうずっと遠い昔の話なのに。

 なぜホリガイは児童福祉の仕事を目指すようなったのか。それをイノギさんに打ち明けるシーンがある。そして言い終わった後のセリフ。
「ダメだなぁー。やっぱ、こんなとっ散らかったことしか言えないやつなんです。私って」
それに対しイノギさんは
「その言葉で十分だと思う」と答える。
 ジーンとくる。すごくいいシーン。
 作者や監督のレベルはこんなシーンを作り出せるかどうかでその高さがわかると思う。

 ホリガイは、実はこんなとっ散らかった言葉を吐きながら、自分に向き合い対話しているのだと思う。イノギさんの言葉で彼女はそれを理解したのではないだろうか。

 余談だが、卒論にアンケートをとるという設定が、ホリガイの残された数ヶ月を価値あるものにした重要な道具となっている気がする。卒論を書く作業は実は案外そんな要素もあるのじゃないだろうか。そんなことを今頃気づいた。

 ラストのホリガイのしっかり前を向いた凛々しい視線が印象的。きっといい児童福祉士になるだろう。

#2022ー88
死ぬまでに観たい映画マイベスト1000-23
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