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セイント・フランシスのakihiko810のレビュー・感想・評価

セイント・フランシス(2019年製作の映画)
3.9
「でも勇気を出したでしょ。だから立派なんだよ」

大学を中退し、レストランの給仕として働きながら夏の子守りの短期仕事(ナニー)を必死に探す34歳の独身女性ブリジット。
子守りを任された6歳の少女フランシスやその両親であるレズビアンカップルとの出会いを通し、彼女の冴えない人生に少しずつ変化が訪れる。

よかったのだが、私の好物の「ダメ人間もの」なのかと思って観たのだが、思っていたのと違った。
たしかに先行き不安定でやりたいこともするべきこともわからず、というダメ人間濃度の高い女性なのだが、そのダメさ加減そのものを愛する(たとえば「レッド・ロケット」のような)ものではなく、なんというかその不安定感、グラグラ感をそのまま「そんなこともあるよ」と許容して、温かく見守る、というような作品だった。

本作は20代でナニー(シッター)として働き、30代になって中絶した自身の経験をベースに、ケリー・オサリヴァンが脚本を執筆、自ら主演を務めた作品だそう。実話あて書きだったのか。

本作は、生理、そして中絶をベースに、男にはわからない、妊娠中のつわり、不正出血、尿漏れ、授乳、育児の過酷さといった “女の悩み” がリアルに再現されていた。「オトナの女って難儀だよね…」というのがひしひしと伝わってくる。
そして、登場する男たちのクソさ。いい年齢して避妊くらいしろよ…と普通の人なら思うだろう。

「でも勇気を出したでしょ。だから立派なんだよ」
これは忍び込んだ教会で“懺悔ごっこ”をしたときに、神父に扮した6歳のフランシスがかけてくれた言葉。フランシスの母が、他の母親に授乳をいびられたときに、逃げずに機転を利かせていたのを見ていてくれたのだ。
この教会での懺悔ごっこは素晴らしいシーンだと思う。
人生はある意味ままならないものではあるのだが、それでも前を向いてがんばるしかない…。そんな気持ちになる作品であった。

ただ、まずはコメディとしてみたのに、話はそれなりに重くしんどく、特にナニー先のレズビアンカップルが(はじめのうちは)取っつきにくい人たちだったので、特に映画前半部は「いうほど面白くはないかな…」と思ったのが視聴中の偽らざる本音だったりした。後半部は盛り返して「結構いい作品じゃん…」となったが。
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