演劇的な手法は前作『I Do Not Care If We Go Down in History as Barbarians』から繰り返されている。同作はルーマニアにおけるユダヤ人虐殺についての演劇を企画し、その長い準備過程の中に歴史修正主義者との戦いを混ぜ込んでいたのだが、本作品ではその手法をより過激化させているのだ。また、同作の主人公イオアナ・ヤコブも本作品にカリネスクの継母役で出演している。前作では表情豊かだった彼女も、本作品では他の俳優たちとと同じく暗い表情のままだ。しかも、カリネスク一家の会話は当局に盗聴され記録されていたので、想像/創造の余地もなく彼らの会話が完全に再構築される恐怖。
【プロパガンダの皮をひらいてとじて】 第71回ベルリン国際映画祭で済藤鉄腸さんとKnights of Odessaさんが注目しているルーマニアの映画監督ラドゥ・ジュデの新作『Bad Luck Banging or Loony Porn』が金熊賞を受賞しました。ラドゥ・ジュデといえば第65回ベルリン国際映画祭に出品した『Aferim!』が監督賞を受賞したことで一躍注目された監督であるものの、日本ではまだあまり認知されていない。彼らの紹介を読むと、演劇的手法を用いてルーマニア社会を風刺するタイプに監督だとのこと。そんな彼の新作『Bad Luck Banging or Loony Porn』は学校教師がマスクをしていたにもかかわらずセックステープが流出してしまったことにより法廷バトルにもつれこむコロナ時代も考慮した粗筋だそうですが、予告編を観ると突然MARVEL映画のような異次元の輪っかが登場して混沌としていました。