ピポサル

空白のピポサルのレビュー・感想・評価

空白(2021年製作の映画)
4.9
人間の歪さ、そして不器用ながらも当人なりにもがくさまがところかしこに配置されていて常にむず痒い。行き着く先も見えずタイトルどおり空っぽのまま、ただその場の感情でそれぞれが行動する。しかし、人間は決して愚かな存在ではないと手を差し伸べているところに優しさを強く感じる。父親と、真相はわからないがどうにでも捉えられるスーパーの店長に恩赦を与えてよいのか、これは人によって考え方が変わりそうだけどここであるべき論を振りかざすのはやめようと思う。

冒頭、娘がスーパーを飛び出し店長に追いかけられて事故で亡くなるシーン、誰も喋らないことで不穏さが増しているのはもちろんのこと、観客にバイアスがかからないようにうまく機能している。そして事故の瞬間は全員が苦しむ世界の幕開けとしてふさわしいほど生々しい。

世のため人のため正しいと思ってやっていることが結局インパクトなんてこれっぽっちのもので客観的に自分を見ることのできない本人のエゴでしかなくなっていることの惨さもキツい。網にあがったゴミとかメディアの取材とか。
(女子アナがしんどかった...)

キャラクターの人となりがよくわかる描き方をしている。父親は娘をトレースして今さらではあるけど理解しようとした。素直さを取り戻しつつあったわけだけど、周囲に聞こえるようなオープンな場で店長の疑惑を本人に問いただすのはやってなかったので根本的に悪い人間ではないとわかる。また、店長も荒ぶって感情的になった後、きちんと相手に謝罪をして自分なりの誠意を示す。人間の芯の見せ方が本当にうまいと思った。

主役のふたりだけではなく脇役も最高、特に最初に衝突した女の子の心ここにあらずの様子が良かった。その後も彼女なりの誠意を見せようとしたけど罪悪の念は解放されず救われなかった。そしてその母親である片岡礼子、出演シーンはほんのわずかだけど凄まじいインパクトを残していた。マジですごい。

折り合いの付け方なんて誰もわからず苦しむしかないんだろうけど、おばあちゃんの「この世界はそこまで悪いものではない」のとおりそれぞれに赦しを与えている映画のスタンスがめちゃいい。これを107分でまとめられているのが凄すぎ、無駄が一切なかった。
ピポサル

ピポサル