真田ピロシキ

PIG ピッグの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

PIG ピッグ(2021年製作の映画)
4.0
ニコラス・ケイジの映画を映画館で見るのは20年ぶりくらい。完全に暇つぶし目的で90分程度と短く、隠棲してるケイジが奪われた豚を取り戻しに行くというあらすじに興味を惹かれて見たらなかなかの掘り出し物。リベンジスリラーみたいに書かれてたので、これが私が心底忌み嫌っている『イコライザー』や『96時間』や『Mr.ノーバディ』みたいな一見普通のオッサンに無双させて凡人の欲求を満たさせるハリウッドの底辺にしてジジイの自慰でありなろう系なナーメテーター映画だったら嫌だなあと思っていたけれど、対象が豚なら心配いらんだろうと。

ナーメテーター映画の何が気色悪いかと言うと、どいつもこいつも主人公のジジイをか弱い女子供のヒーローに仕立て上げる、そうした人達をジジイのトロフィー扱いしている点にあるのだけれど、本作でケイジの行動に心動かされるのは世間とのほぼ唯一の繋がりだったトリュフバイヤーの若い男性。くたびれた爺さんが若い男性に一目置かれるのも願望は感じられるが、若い女性でやるよりは遥かに印象が良い。またかつての知り合いだった有名シェフに対して「批評家も客も関係ない。お前には何もない。お前はどうなんだ?」と詰め寄るのは他者の評価を求めているナーメテータージジイへの皮肉と感じられて痛快。

そしてケイジの映画でありながらケイジ自身が暴力に訴えることはなく、殴らせることはしても殴りはしないのが有害な男らしさの煮こごりのようなナーメテーターとは対極。解決方法は何とケイジ版美味しんぼ。それで強欲な金持ちに金に代えられない価値を説いてみせる。成立させるのは流石ケイジの渋み。これは今ではミーム扱いされることが多いケイジをかなり真剣に撮った映画ではないだろうか。描写が弱く感じる部分もあるが、それも余白として受け取れて気に入った点。色物みたいな感じで広められてそうなのがもったいない。