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沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家~のmaroのレビュー・感想・評価

4.0
2021年日本公開映画で面白かった順位:63/179
   ストーリー:★★★★☆
  キャラクター:★★★★☆
      映像:★★★☆☆
      音楽:★★★☆☆
映画館で観るべき:★★★☆☆

今年に入って3本目のホロコーストの史実に基づいた映画。
本作の主人公はマルセル・マルソー。
実在した人物で、「パントマイムの神様」と称されるアーティストだ。
彼の知られざる青年期のレジスタンス活動を描いたのが本作。
子供に焦点が当たっているので、子供がいる人はより一層感情移入できそうな話だった。

こういう実話ベースの映画は淡々と進んで行く作品が多い。
しかし、本作はストーリーに起伏があって映画としても十分に面白かった。

子供の目の前で両親が無残にも殺される衝撃。
ナチスから逃げ惑う恐怖。
マルセルと子供たちの触れ合いによる感動。
いろんな感情が刺激される点でとても見ごたえがある!

特に印象的だったのが2点。
まずはマルセルの"思考の転換"。
彼が想いを寄せるエマの妹がナチスに殺され、復讐を誓うエマ。
他にも多くの人が殺されている中、やり返したい気持ちはとても共感できる。
現実にもナチスに復讐したかったユダヤ人はたくさんいたはず。

ところが、マルセルはその怒りを敵に向けることはしなかった。
彼は敵に復讐したい気持ちを、子供を守ることへとシフトさせたから。
やり返したところで、人が死んで終わり。
でも、子供を守れば、彼らはやがて新しい家族を作り、世代が続いていく。
煮えたぎる怒りを抑え、冷静に未来を見据えていたんだよ。

もしレジスタンスに、ナチスと同等かそれ以上の武力があったのなら、やり返していたかもしれない。
武力で劣る彼らがやるべきことは、真っ向から勝負を挑むことじゃない。
小さな命を未来へとつなげることだった。
仲間が理不尽に殺されているこの状況でだよ。
マルセルの判断と決断はなかなかできることじゃないなと感じた。

もうひとつは、ナチス親衛隊中尉だったクラウス・バルビー(マティアス・シュアヴィクホファー)。
彼は"リヨンの虐殺者"と呼ばれるほど残忍な人物だったらしい。
ウィキペディアでは、「ヴィシー政権下のリヨンで反独レジスタンスを鎮圧する任務に就いており、8,000人以上を強制移送により死に追いやり、4,000人以上の殺害に関与し、15,000人以上のレジスタンスに拷問を加えた責任者」と記載されていた。

映画の中でもその非道っぷりがよく描かれている。
「疑わしきは即殺害」と言わんばかりに、騒動を起こした容疑者は全員射殺。
エマへの拷問は、彼女自身にではなく、その妹の皮を剥ぐという鬼畜さ。

そんな彼にも綺麗な奥さんと、生まれたばかりのかわいい赤ちゃんがいるんだよね。。。
裏では人を殺しまくっているのに、子供の前では優しい父親。
その対比がものすごく怖い。
最上級のサイコパスじゃねぇかって。

ホロコーストでは実に150万人以上の子供たちの命が奪われたそう。
ユダヤ人を救った人たちの映画はいろいろあるけど、圧倒的に救えなかった命の方が多い。
もはや自分が生まれる前の話ではあるけれど、こういう過去があったということは人として知っておきたい。
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