Kaji

ただ悪より救いたまえのKajiのネタバレレビュー・内容・結末

ただ悪より救いたまえ(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「いいに決まってんだろ」という思いで観に行ったら、むちゃくちゃ良かった。ほんとに良かった。

「レオン」型ではあるけど、捻りもあるしキャラクターも立体的で、アクション・武器・ストーリー、撮影、質感どれをとっても秀逸な出来。しかもアクションだけでも、ガンアクション・チェイス・ナイフ・爆破・肉弾戦・市街戦と見どころまみれでした。監督インタビューでアクションには必然性があるリアルさと打撃感を重視したとのこと。しかと受け止めました。

今作ではダンディズムやマスキュリニティではなく、疲れて仕事をやめたい人が「今まで自分の中に無かった心」に気づく物語でした。

「楽園の夜」といい、韓国ノワールがまたルネサンスなのでは。何回目の脱皮だろうか。すごい。

今作はどんどん醸成されていく親心が描かれている点である意味「そして父になる」や「ソウォン」のようなある男性が「お父さん」になる話にも近い気がします。。こじつけ臭いかな。




インナムは存在を知らなかった我が子の危機的状況を知り奔走しますが、やはり最初は子供の存在に狼狽えていて、誘拐を知ってから動き出し、臓器売買のドナーとして身売りされたことを知り火がつきます。
ヒントを持ってる人の指をペンチで切ったりして拷問する人ですがパパです。
 対北の精鋭から殺し屋という影の存在として生きていた人だし、彼女に別れを告げるとこまでで映画1作できそう。「甘い生活」的な。
エレベーターのとこは「新世界」や「アシュラ」のオマージュでしょうか。
 日本の居酒屋で1人飲み、店員に話しかけて時間を潰す哀愁で、なんかこの人の孤独感がわかるような演出。お土産のみたいな絵にパラダイスを感じて、飛ばしっぽいガラケーしか持ってなくて。。。
 しかもインナムの最後の仕事のターゲットだった男の実弟レイに追われていて、、
この男レイ(イジョンジェ)は、残忍・凶暴・根拠なしの3拍子揃った闘牛みたいな男で、赤い旗として標的となったインナム一人に向けられた攻撃力と執拗さが半端ない。暴れ牛暴れ放題です。

舞台が東京→韓国(仁川)→タイに移るオーソドックスな3幕構成ながら、タイ編での目まぐるしく血生臭く、タイマフィアも加わる三つ巴。
アクション満貫全席の中で、娘を奪取する間の切羽詰まる状況から少しづつ芽生える父性をじわじわと高めていったファンジョンミンの演技力と、どこまでも容赦ないイジョンジェのあの目つき。
手品のシーンを挟むとこは、ほんと脚本力を感じました。
 誘拐され不安と心の傷に苛まれている子役演技も良くて、臓器売買や人身売買といった犯罪も絡めてあり胸がギュッとなりました。。

「楽園の夜」という本年度のノワール名作が最後に寂寥感を残した、暴力の呵責と悔恨を描いたのなら、今作は死力の限りを尽くした先に自分が死んだとしても生きていてほしい存在に希望を託したラストで、助っ人に登場したユイ(パクジョンミン)の繊細な「女形」演技が冴えて、パナマの安穏としてカラッとした海辺の遠景は、インナムが描いた未来だったんだろうなと思わせる詩的なラスト。あの写真立てのカット。

 ユイがトランスジェンダーなのが絶妙で彼女の中にある父と母どちらも受け持てるような親心がまた泣かせるというか。。
「しょうがないわね」って。
警察署で髭伸びちゃってるとこや、ちょっとしたギャル仕草も話の過激さを緩和するキーパーソンでした。
 出会ったばかりで父親の爆死という過去を持ってしまった子の将来を受け持つことが、ユイにとって幸せなことであるようにと願わずにいられません。

 レイも、魅力的なキャラクターで「悪魔を見た」のイビョンホンのようなしつこさに加えて「理由なんて、もうどうでもいい」と言ってしまえるという振り切り方。
 白のロングコートという暴走族OBみたいな衣装があんなにクールになるなんて。食事シーンがなかったことで、生活感を排除したのも良かった。
 レイは快楽のためでも、兄の復讐もただのきっかけで、インナムの腹を割きたいのです。
これはすごい。こんなキャラ、ハンニバル・レクターもちびります。レクター博士には超個人的な殺人の根拠がありますからね。
そんな人が行くとこ行くとこに現れて、刃渡りなんぼよっていうナイフで金網ギコギコしてくるなんて。トゥクトゥクから散弾銃を撃ってくるなんて。
ベストに手榴弾をジャラジャラ付けてるなんて。
 あの電話の声の意思の強さがおっかねえよぉ。レイにとってインナムの子供がどうなろうと知らんこっちゃないわけで。
 
 レイは感情の代替が暴力しかない人物なのかもしれない、怒りも悲しみも楽しさも全て無くなった代わりに異常発達した暴力衝動が彼を生かしていたのかと思うと哀しい人物で、彼の人生は死ではなく目的の達成が終わりだったなら、片想い心中ですね。


いや〜、満腹というか。かなり満足度が高く、青龍賞でノミネートされまくっていて、「み、、観たい、、」と思ってからずっと待っていた甲斐がありました。
スタッフ布陣もトップランナーばかりで贅沢。。

ホンウォンチャン作家の監督2作目、この人の脚本作品には常識で測れないクレイジーな人と影を背負い込んだ人が対決する話ばかりな気がしますが、意識して脚本作品追ってみようかな。

韓国ノワール、大好きです!
Kaji

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